目的地であったアバール砂漠がある街〈ベルン〉へと着いたラティアとディークは夜ご飯を済ませる為に良さげなお店に入ることに。
店内に入るとラティアとディークは女性の店員に空いている席へと案内される。
「ご注文決まりましたら、お呼び下さい。ごゆっくりどうぞ」
若い女性店員はそう告げて、立ち去って行く。ラティアとディークは席に着き、店員の背を見送った後、机の上に置かれていたメニュー表を手に取り、口を開く。
「どれも美味しそうね」
「そうですね」
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夕食を済ませたラティアとディークは、お店を出て、アバール砂漠へと向かう為、夜の空の下、ベルンの街並みを横目に歩き始める。
互いに無言のまま歩くラティアとディーク。
しかし、無言に耐えかねたラティアは隣を歩くディークに話し掛ける。
「ディーク、貴方はどうして宝石病の研究を始めたの?」
「小さい頃、母親が宝石の病に侵されて、亡くなったんです。俺は病に侵されて命を落としてしまう人を、一人でも多く救いたい。そう思って、宝石の病を研究を始めたんです」
ディークは母親のことを思い出しながら、ラティアにそう伝え終わると、隣を歩くラティアの方を見て優しく笑う。
「俺はラティア王女、貴方の病を絶対に治してみせます」
ディークの強い芯のある声に、ラティアは感謝の気持ちを込めて、ありがとうと礼を返した。
✴︎
ラティアとディークがアバール砂漠の中に建つ女神の宮殿に到着した頃。
ラティアとディークを先に行かせる為にラパニア国とフィリアント国の国境を繋ぐ橋で盗賊の相手をするべくその場に残ったラティアの騎士であるベルロット、バロン、ハレクの三人は、あの後、盗賊を無事倒し終え、先に行ってしまったディークとラティアの後を追っていた。
そして現在。
ラティアとディークが数日前に通ったであろうフィリアント国の南に位置する大きな街〈ルディア〉にある宿屋にいた。
「俺は、休憩取りたくないんだけどなぁ……」
宿屋に入るなり、ハレクは乗り気じゃない声色で両隣りにいる同じ役職を担うベルロットとバロンに向けて呟くが。
「急ぎたい気持ちもわかるが、休息も必要だ。バロン、お前もそう思うよな?」
「ああ、あの戦闘で少し体力を使ったからな。少し休むべきだと思う」
「わかったよ、だけど、明日は早朝で出発だからな」
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一方のラティアとディークはフィリアント国にある街〈ベルン〉へと辿り着き、アバール砂漠の中に建つ女神の宮殿に無事に着いていた。
宝石病を治す為の儀式の準備をしている間、ラティアは宮殿の外にある階段に座り込み、星が瞬く夜空を見上げていた。
「綺麗な夜空ね」
ラティアの声は夜の空気に溶け込み消えていく。時折、心地よく吹く夜の風が、ラティアの腰まである金髪に当たる。
夜の空に浮かぶ月の光によって、照らされたラティアな髪色はいつもより倍、美しく見えた。
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どれくらいの時間が経ったのだろう?とラティアが思い始めた頃、儀式の準備が出来たディークが宮殿の外にいたラティアを呼びに来た。
「ラティア王女、準備が出来たので来てください」
「ええ、わかったわ」
ディークにそう返答し、腰を下ろしていた階段から立ち上がり、ディークと共に準備が出来たであろう場所へと向かう為、歩き始める。
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ラティアとディークが女神の宮殿に再び入り、ディークが準備したであろう宝石の病を治す為の儀式をする場所まで来るとラティアはある事に気付いたのか口を開く。
「ディーク、これ全て貴方が書いたの?」
魔法陣が宮殿の白い床に赤く描かれていたのを目にしたラティアは少し驚いた顔をディークに向ける。
「はい。全部、書きました」
「この短時間で?」
「はい」
宝石の病を治すには、女神の宮殿で儀式的なことをすることによって、女神の力が込められ、どんな病でも治せるという実例があるとはディークから聞いていたが。
儀式に必要不可欠な魔法陣をこの短時間で一からここまで描くことが出来るという事にラティアは感心しつつ驚いていた。
「では、始めましょうか?」
「そうね」
ラティアは魔法陣が描かれた白い床の上に立ちディークの方を見た。
ディークが何かを唱え始めると魔法陣は白く光り輝き始める。
ラティアは宮殿の白い床に描かれた魔法陣と共に自身の体が煌々としていくのを目を逸らさずに見つめ続ける。
「なんでだ……? これじゃダメだ……」
そんなディークの一声で白い光を放っていた魔法陣は徐々に光を失っていく。
ラティアは青白くした顔で困惑しているディークを見て、問う。
「失敗したの……?」
ラティアの問い掛けにディークは押し黙り、下を向く。
そんなディークの態度が今の状況の答えであるのだとラティアは理解し、口を引き結んだ。


