まだ薄暗い夜明け前の空の下。
 少女の悲痛な嗚咽と目の前に居たであろう人物が残した小さなアメジスト色の宝石のように美しく輝く欠片が、宮殿の白い床に点々と散らばっていた。

「どうして、言ってくれなかったの……? 貴方は私を救う為にここまでする必要はあったの」

 少女は白い床に散らばる宝石のように美しいアメジスト色の小さな欠片をそっと拾い掌に乗せ、悲しげな声でそう呟く。

 そんな少女の瞳から一度は治まった涙が再度溢れ落ちた。少女の涙は宮殿の白い床を濡らしたが、少し経てばまた乾くことだろう。

「貴方の命と引き換えに私の病を治してくれたこと、決して忘れないわ。さようなら……」

 少女はもう此処には居ない人物にそう言い別れを告げて、弱々しく立ち上がり、背を向けその場を後にする。

 宮殿の外に出ると心地良い夜明け前の風が少女の肌を刺した。涙で濡れていた少女の頬にも風が当たり徐々に乾いていく。

 少女は少し明るくなりつつある空を見上げて、これからやらなければならないことから逃げる事は出来ないと己に強く言い聞かせた。

 自分の病を命をかけて治してくれた彼に対して、恥ずかしくない道をこれから歩み進んでいきたい。
 それが少女がこの地で決意した最後の物だった。