胸の奥が爆発しそうだった。
息を吸う余裕もなくて、ただ視線を絡められたまま、足が地面に縫い付けられていた。
「……俺はずっと、お前が好きだった」
奏真の言葉が、鼓膜を震わせ続けている。
冗談じゃない。本気すぎて怖い。
だけど――怖さの向こうに、熱がこみ上げて、身体の内側を焼き尽くしていく。
「……っ!」
堪えきれず、俺は奏真の胸を叩いた。
衝撃あるくらいの力で。痛いほどじゃない。でも自分の掌がじんと痺れるくらいには強く。
「ふざけんな……!」
声が掠れる。
「お前に……騙されて、振り回されて、散々……! 俺がどんだけ……!」
言葉は途中で途切れた。
掴みどころのない感情が、全部喉に詰まって、震えに変わってしまう。
叩いた手はそのまま奏真の胸に残っていた。
振り払うこともできず、ただ押し当てるみたいにして、顔を下に向ける。
胸板の鼓動が、掌に直接伝わってきて、俺の心臓と同じ速さで暴れていた。
「……それでも」
小さな声が勝手に零れる。
聞かせたくないのに、耳に届くくらいの音で。
「それでも……好きなんだよ……」
顔は上げられない。
見られたら、壊れてしまう。
それでも言葉は止まらなかった。
「……どうしようもなく、好きなんだよ」
一拍の沈黙。
そうだ。俺はこいつが好きなんだ。
もう、隠せないほどに。
ふっと胸に当てた重さが加わった。
奏真が、自分の手を俺の手に重ねていた。
「……陸」
名前を呼ぶ声は、低くて、でも優しかった。
逃げ道を塞ぐんじゃなく、そっと囲うみたいな響き。
「ならもう――離さない」
耳の奥で反響したその言葉は、誓いのように真っ直ぐで。
冗談も虚勢もない。
ただ、俺と一緒に未来を選ぶんだという確信だけがあった。
顔を上げたとき、奏真の瞳が近くにあった。
夜風に揺れる街路灯の下、その瞳は一瞬たりとも揺れていなかった。
――俺は、もう逆らえなかった。
※
それから数日後。
あの日から俺たちは――付き合うことになった。
大げさな儀式なんかなく、告白の言葉の延長線上で、そのまま。
それでも、大学で隣に座るだけで、空気は明らかに変わっていた。
「なあ、最近お前ら、仲良すぎじゃね?」
昼休み、学食で広輝がにやにやしながら言った。
唐揚げ定食を頬張りながら、肘で俺の脇腹をつついてくる。
「なっ……!」
慌てて声が裏返った。
「ち、違ぇよ! ただのゼミ仲間だし!」
必死で否定する俺の横で、奏真は涼しい顔をしていた。
箸を置き、冷静に水を一口飲んでから、さらっと言う。
「ゼミ仲間はあんなことしないけどな」
「っ、おま――!」
俺は思わず机を叩きそうになった。
広輝が「ほら見ろよ」と腹を抱えて笑う。
顔が熱い。耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。
どうしてこいつは、こういうときにだけ涼しい顔をできるんだ。
食堂を出たあと、廊下を並んで歩いていると、奏真が少し身を寄せてきた。
俺は反射的に距離を取ろうとしたが、すぐに耳元に低い声が落ちてきた。
「……可愛い」
「……っ!」
一瞬で固まった。
胸の鼓動が跳ね上がる。
顔を逸らしたいのに、足は止まらない。
「な、なに言ってんだバカ!」
必死に声を張る。
けれど彼は、何事もなかったように前を向いて歩き続けた。
その横顔はほんの少し笑っていて――それがまた腹立たしくて、でも。
胸の奥では、どうしようもなく熱が広がっていた。
――恋人としての始まりは、こんなふうに、不意打ちの連続だった。
息を吸う余裕もなくて、ただ視線を絡められたまま、足が地面に縫い付けられていた。
「……俺はずっと、お前が好きだった」
奏真の言葉が、鼓膜を震わせ続けている。
冗談じゃない。本気すぎて怖い。
だけど――怖さの向こうに、熱がこみ上げて、身体の内側を焼き尽くしていく。
「……っ!」
堪えきれず、俺は奏真の胸を叩いた。
衝撃あるくらいの力で。痛いほどじゃない。でも自分の掌がじんと痺れるくらいには強く。
「ふざけんな……!」
声が掠れる。
「お前に……騙されて、振り回されて、散々……! 俺がどんだけ……!」
言葉は途中で途切れた。
掴みどころのない感情が、全部喉に詰まって、震えに変わってしまう。
叩いた手はそのまま奏真の胸に残っていた。
振り払うこともできず、ただ押し当てるみたいにして、顔を下に向ける。
胸板の鼓動が、掌に直接伝わってきて、俺の心臓と同じ速さで暴れていた。
「……それでも」
小さな声が勝手に零れる。
聞かせたくないのに、耳に届くくらいの音で。
「それでも……好きなんだよ……」
顔は上げられない。
見られたら、壊れてしまう。
それでも言葉は止まらなかった。
「……どうしようもなく、好きなんだよ」
一拍の沈黙。
そうだ。俺はこいつが好きなんだ。
もう、隠せないほどに。
ふっと胸に当てた重さが加わった。
奏真が、自分の手を俺の手に重ねていた。
「……陸」
名前を呼ぶ声は、低くて、でも優しかった。
逃げ道を塞ぐんじゃなく、そっと囲うみたいな響き。
「ならもう――離さない」
耳の奥で反響したその言葉は、誓いのように真っ直ぐで。
冗談も虚勢もない。
ただ、俺と一緒に未来を選ぶんだという確信だけがあった。
顔を上げたとき、奏真の瞳が近くにあった。
夜風に揺れる街路灯の下、その瞳は一瞬たりとも揺れていなかった。
――俺は、もう逆らえなかった。
※
それから数日後。
あの日から俺たちは――付き合うことになった。
大げさな儀式なんかなく、告白の言葉の延長線上で、そのまま。
それでも、大学で隣に座るだけで、空気は明らかに変わっていた。
「なあ、最近お前ら、仲良すぎじゃね?」
昼休み、学食で広輝がにやにやしながら言った。
唐揚げ定食を頬張りながら、肘で俺の脇腹をつついてくる。
「なっ……!」
慌てて声が裏返った。
「ち、違ぇよ! ただのゼミ仲間だし!」
必死で否定する俺の横で、奏真は涼しい顔をしていた。
箸を置き、冷静に水を一口飲んでから、さらっと言う。
「ゼミ仲間はあんなことしないけどな」
「っ、おま――!」
俺は思わず机を叩きそうになった。
広輝が「ほら見ろよ」と腹を抱えて笑う。
顔が熱い。耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。
どうしてこいつは、こういうときにだけ涼しい顔をできるんだ。
食堂を出たあと、廊下を並んで歩いていると、奏真が少し身を寄せてきた。
俺は反射的に距離を取ろうとしたが、すぐに耳元に低い声が落ちてきた。
「……可愛い」
「……っ!」
一瞬で固まった。
胸の鼓動が跳ね上がる。
顔を逸らしたいのに、足は止まらない。
「な、なに言ってんだバカ!」
必死に声を張る。
けれど彼は、何事もなかったように前を向いて歩き続けた。
その横顔はほんの少し笑っていて――それがまた腹立たしくて、でも。
胸の奥では、どうしようもなく熱が広がっていた。
――恋人としての始まりは、こんなふうに、不意打ちの連続だった。

