熱帯雨林は、昼の陽光を浴びて息を呑む。
アマゾンの奥深く、緑の天蓋が幾重にも重なり、隙間から差し込む光は刃のように鋭く地を裂き、地表に無数の銀の斑を描いていた。湿気は肺を焼き、汗は瞬く間に皮膚を這い、舌には塩の味が残る。鳥の叫びが遠く、虫の羽音が絶えず耳を刺す。
その中心に、銀の徽章を胸に灯す男が、ただ一人立っていた。

ベテル斎。
人間でありながら銀警官の特務官に任じられた、唯一の熱血漢。
右手に握るのは、星華。
水銀を宿した太刀は陽の光を浴び、妖しく濁りながら、まるで生き物のように脈打っていた。

「……見つけた」

茂みをかき分け進んだ先、野営地の中心。
褐色の巨漢が鎌を振り回し、希少植物を次々となぎ払っていた。

マーグレイヴ。
金血の力を持ち、傷を癒すと同時に狂気を宿す密猟者。
黒髪は汗に濡れて張りつき、笑い声は獣の咆哮のように響く。

「ホモtheゲイの奴隷か。今すぐその場で死にやがれ!!!!」

巨漢が振り向く。
鎌が弧を描き、風を裂く。
ベテル斎は身を沈め、紙一重で刃をかわす。
背後の幹が真っ二つに裂け、木屑が雨のように降り注いだ。

星華が唸る。
水銀の膜が刃を覆い、毒々しい光を放つ。
一閃。腹を裂く。
金血が噴き上がり、熱が肌を焼く。
だが傷口は泡立ち、肉がうごめき、瞬く間に塞がっていった。

「くそっ…水銀め! けどよ、負けてらんねぇぜ!」

マーグレイヴが吼える。
鎌が垂直に振り下ろされる瞬間、ベテル斎は横に跳び、地面を転がった。
大地が爆ぜ、泥が顔を打つ。
立ち上がりざま、星華を逆手に構え、脚を薙ぐ。
水銀が血管を這い、巨漢の動きが一瞬止まる。

「ッ……!」

鎌の柄が胸を突く。
肋骨が軋み、肺が潰れる。血が口に広がる。
それでも、ベテル斎は歯を食いしばる。
仲間たちの顔が脳裏をよぎる。守るべきものは、まだある。

「てめえの野蛮は、ここで終わりだぁ!!!」

星華が閃く。首が飛ぶ。
宙を舞う頭部の灰色の瞳に、最後の恐怖が宿る。
褐色の巨体が倒れ、血が大地を染める。
鎌が落ちた。静寂が訪れる。

ベテル斎は膝をつき、荒い息を吐いた。
汗と血で全身が重い。だがその瞳は熱を失わない。

「……任務完了」

彼はゆっくりと立ち上がり、星華を鞘に収める。
太刀を覆う水銀が、静かに光を失う。

銀警官本部への簡潔な通信。
『マーグレイヴ討伐完了。密猟活動停止。資源残骸回収。負傷軽微。次も——守る。ベテル斎』

熱帯雨林は、再び息を吹き返した。
鳥が戻り、虫が鳴く。陽光は変わらず緑の天蓋を照らし続ける。
そしてその下に、ただ一人の男が立っていた。
熱い血をたぎらせ、仲間を想い、銀の徽章を胸に灯して。