銀警察署・深夜零時 監視室の奥。
モニターは青白く光り、地下訓練場と資料室の映像が交互に映る。
ルークとビショップは、二人並んで椅子に腰掛け、音を殺しすぎて、息さえ凍る。
ルークは腕を組み、ビショップは指を組み、どちらも口をへの字に結んでいる。
白い瞳は、冷たく、吐き気を催すように細く歪む。

【地下訓練場 ベテル斎の自殺未遂】
モニターに映るベテル斎。
ロープを梁にかけ、首に回す。
「レイモンド……俺は、お前が好きだ」
ルークの眉が、嫌悪の皺で跳ね上がる。
ビショップは目を細め、唇を噤み、舌打ちを殺す。
「……気持ち悪い」
ルークが初めて呟く。声は低く、まるで腐臭を嗅いだようだ。
ビショップは答えない。
ただ、モニターの隅に表示される「副署長の心拍数:128」を吐き捨てるように見る。
レイモンドが動く。
「馬鹿野郎」
「死ぬな。僕が許す」
抱擁。
ベテル斎の涙が、レイモンドの白い軍服に染み込む。
ルークが、胃を押さえる。
「……カンディルが、汚した」
ビショップが、初めて口を開く。
「汚したのは合ってる。追加で腐った入れて。鋼は曲がる前に、まず錆びる。てか、錆びまくりの刑執行じゃぁん。名、合ってんな★ 人の内蔵食い荒らして殺すから。もう、ソレ★」

【資料室 奏丞の自殺未遂】
場面が切り替わる。
今度は奏丞。
ロープを天井パイプにかけ、静かに首を差し出す。
「レイモンド……俺は、お前が好きだ」
ルークの指が、椅子の肘掛けを爪で抉る。
ビショップは目を閉じ、祈るようにではなく、呪うように両手を握る。
レイモンドが現れる。
「馬鹿野郎」
「死ぬな。僕が許す」
再び抱擁。
だが、今度はレイモンドの背中が、卑猥に震えている。
ビショップが目を開ける。
「……二度目だ」
ルークが頷く。
「同じ台詞、同じ動作。ただ、吐き気がする」
ビショップが続ける。
「ベテル斎には『仲間』。奏丞には『部下の中の幻想』。カンディルは、自分ルールで汚物を飲み込んでいる」

監視室 二人の吐露
ルークが立ち上がる。
「消去しまっか?」
ビショップが首を振る。
「いいや。これは穢れの記録だ。人間が触れるべきではないんだけど…署長に見せちゃお★」
ルークが鼻を摘む。
「哲学者め。君はいつもそうやって逃げる…ただ、署長には必ず見せておけ★」
ビショップが顔を歪める。
「逃げているのは、レイモンドだ。『ホモが嫌い』『女が嫌い』『恋愛が嫌い』――三つの壁を、自分でぶち壊して、泥水を啜っている…早く全壊したれカス★ で、辞職か死刑のどっちかっすね★」
ルークがモニターを拳で叩く。
「見てみやがれ。訓練場と資料室の映像。同じ時間軸で、二つの腐敗が始まったわい★ 臭いったらありゃしない」
ビショップが静かに言う。
「いや。終わった。――人間としての尊厳が、存在意義すら無くなってたわ★」

終幕
二人は立ち上がる。
ルークがスイッチを乱暴に切る。
モニターが粉々に割れる。
ビショップが呟く。
「……カンディルは、もう人間ではない。キモイキショい化けモンっすわぁ……(絶句)」
ルークが答える。
「戻る必要もない。腐った壁は、もう壁ではない。これは肉壁な★ 汚ェわぁ……(絶望)」
二人は背中合わせに歩き出す。
白い髪が、闇に呑まれる。
銀警察署の深夜。
誰も知らない場所で、
二人の哲学者が、腐敗の始まりと終わりを見届けた。
――記録は消去される。
だが、嫌悪は永遠に残る。