階段を下りていたであろう一条琉唯がピタッと動きを止める。
一条琉唯と滝川ノアが付き合っているという話は校内で有名だけれど、何か弱みでも握られてるのだろうか?
所属事務所の会長の孫娘ってだけでパワーバランスが偏っている気はするけど……。
「――仕事終わったらノアに連絡する」
「うん。待ってるわ」
僕は見つからないように息を潜めて、二人が立ち去るのを待ってから、映像研究部の部室へと向かった。
僕だけのリラックス空間である部室にきても胸騒ぎが収まらない。
窓に暗幕を引いて、部屋のドアの四角い窓には厚い黒紙を貼り、暗くなった空間でソファーに体育座りしてプロジェクターで映し出された映像を眺める。
美織さんが持たせてくれたお弁当も目の前に広げっぱなしで食が進まない。
スクリーンに映し出しているのは、咲良菜緒が僕と同じ16歳の時に主演した映画だった。
大正時代が舞台の映画『遮二無二浪漫』
我が母親ながら、咲良菜緒はモダンな袴姿が似合っていて明るくはつらつとした役柄もあって、とんでもなく愛くるしい。
上映された当時、そして今でも鑑賞した人を魅了してしまうだろう。
僕の好きな映画のひとつだ。
なのに、どうして、こんなに一条琉唯のことばかり脳内を占めているのだろう。
ノアさんと普通に付き合っているものだと思っていたけど、何だか訳ありっぽい。
――一条琉唯が探しているのはショートカットのかわいい子か……。
映画が終わる前にお弁当をのろのろと食べ終え、15時には下校した。
18時からの僕の誕生日会に間に合わせるためだったけど、高2の学習範囲の参考書を買いたくて自転車で駅ビルへと立ち寄ることにした。
自転車を駅前の駐輪場に止め、激しく車も人も行き交う交差点で、信号待ちをする。
見上げた先、ビルには大きな街頭広告が飾られていた。
咲良菜緒が起用された化粧水の看板広告。
現在放映中のCMには咲良菜緒が20歳の時の映像が使われているらしい。
透明感あふれる美しい白い肌。
煌めく胡桃色のなめらかな髪。
完璧と言えるほど整った目鼻立ち。
ただ絶妙な具合で垂れ目気味なためか美人でありながら、不思議と親近感と愛らしさも感じさせる。
没後16年を経て、令和に年号が変わり美の基準が変化していたとしても、色褪せない不変の輝きを放っていた。
「あの化粧水の広告の子、とってもきれいじゃない? 誰? 新人の子?」
「え、咲良菜緒知らないの? かなり昔に若くして死んじゃった女優だよ」
「もう死んじゃってるんだ」
「うん。病気か何かで。24歳とかじゃなかった?」
「もったいなーい」
同じく信号待ちで近くに居たOL二人組が咲良菜緒の広告を見上げて会話をしていた。
そして、咲良菜緒の看板広告の下には一条琉唯がCMしているメンズ洗顔料の広告看板が縦に並んでいる。
商品を片手に持ち、片目を閉じている一条琉唯の表情は男でもほれぼれするほど魅入ってしまう。
「ちょうど洗顔切れたから、あの一条琉唯がCMしてるの買って帰ろうかな」
「一条琉唯っていい男すぎるよな。アレで同じ年だもんな」
「あれだけイケメンだと、どういう人生歩んでるんだろ」
「人生イージーモードじゃないの? うらやま」
「っていうか、一条琉唯の看板の上の女って誰? めっちゃ綺麗な子じゃん」
「うわ、マジだ。かわいすぎ。誰、あれ」
「俺、検索してみるわ」
男子高校生3人組も一条琉唯と咲良菜緒の広告を話題に出していた。
一条琉唯は僕には全く関係ない、同じ高校に通っていたって遠い世界に居る人……。
けど、何だろう。
どうやら一条琉唯は人生イージーモードではなさそうな感じがした。
一条琉唯と滝川ノアが付き合っているという話は校内で有名だけれど、何か弱みでも握られてるのだろうか?
所属事務所の会長の孫娘ってだけでパワーバランスが偏っている気はするけど……。
「――仕事終わったらノアに連絡する」
「うん。待ってるわ」
僕は見つからないように息を潜めて、二人が立ち去るのを待ってから、映像研究部の部室へと向かった。
僕だけのリラックス空間である部室にきても胸騒ぎが収まらない。
窓に暗幕を引いて、部屋のドアの四角い窓には厚い黒紙を貼り、暗くなった空間でソファーに体育座りしてプロジェクターで映し出された映像を眺める。
美織さんが持たせてくれたお弁当も目の前に広げっぱなしで食が進まない。
スクリーンに映し出しているのは、咲良菜緒が僕と同じ16歳の時に主演した映画だった。
大正時代が舞台の映画『遮二無二浪漫』
我が母親ながら、咲良菜緒はモダンな袴姿が似合っていて明るくはつらつとした役柄もあって、とんでもなく愛くるしい。
上映された当時、そして今でも鑑賞した人を魅了してしまうだろう。
僕の好きな映画のひとつだ。
なのに、どうして、こんなに一条琉唯のことばかり脳内を占めているのだろう。
ノアさんと普通に付き合っているものだと思っていたけど、何だか訳ありっぽい。
――一条琉唯が探しているのはショートカットのかわいい子か……。
映画が終わる前にお弁当をのろのろと食べ終え、15時には下校した。
18時からの僕の誕生日会に間に合わせるためだったけど、高2の学習範囲の参考書を買いたくて自転車で駅ビルへと立ち寄ることにした。
自転車を駅前の駐輪場に止め、激しく車も人も行き交う交差点で、信号待ちをする。
見上げた先、ビルには大きな街頭広告が飾られていた。
咲良菜緒が起用された化粧水の看板広告。
現在放映中のCMには咲良菜緒が20歳の時の映像が使われているらしい。
透明感あふれる美しい白い肌。
煌めく胡桃色のなめらかな髪。
完璧と言えるほど整った目鼻立ち。
ただ絶妙な具合で垂れ目気味なためか美人でありながら、不思議と親近感と愛らしさも感じさせる。
没後16年を経て、令和に年号が変わり美の基準が変化していたとしても、色褪せない不変の輝きを放っていた。
「あの化粧水の広告の子、とってもきれいじゃない? 誰? 新人の子?」
「え、咲良菜緒知らないの? かなり昔に若くして死んじゃった女優だよ」
「もう死んじゃってるんだ」
「うん。病気か何かで。24歳とかじゃなかった?」
「もったいなーい」
同じく信号待ちで近くに居たOL二人組が咲良菜緒の広告を見上げて会話をしていた。
そして、咲良菜緒の看板広告の下には一条琉唯がCMしているメンズ洗顔料の広告看板が縦に並んでいる。
商品を片手に持ち、片目を閉じている一条琉唯の表情は男でもほれぼれするほど魅入ってしまう。
「ちょうど洗顔切れたから、あの一条琉唯がCMしてるの買って帰ろうかな」
「一条琉唯っていい男すぎるよな。アレで同じ年だもんな」
「あれだけイケメンだと、どういう人生歩んでるんだろ」
「人生イージーモードじゃないの? うらやま」
「っていうか、一条琉唯の看板の上の女って誰? めっちゃ綺麗な子じゃん」
「うわ、マジだ。かわいすぎ。誰、あれ」
「俺、検索してみるわ」
男子高校生3人組も一条琉唯と咲良菜緒の広告を話題に出していた。
一条琉唯は僕には全く関係ない、同じ高校に通っていたって遠い世界に居る人……。
けど、何だろう。
どうやら一条琉唯は人生イージーモードではなさそうな感じがした。



