***
今年も季節は巡り、カレンダーは最後の一枚となっていた。
11月中旬に実施された北海道への修学旅行は意外にも楽しい思い出が出来た。
9月早々に行われた班決めの時から、ぼっちの僕はどこにも所属できず厄介者になるのだろうと思ったけど、同じクラスの陸上部の男子3人が僕に誘いの声をかけてくれた。
「実は俺たち桜庭と話してみたいと思ってた」
「桜庭くんは七嶋くんと仲良しだもんな」
「七嶋のお気に入りの人間に悪いやつがいるはずないし」
「七嶋くんには言わないでほしいんだけど、俺たち七嶋くんを尊敬してるの」
「アイツのコミュ力えぐいって。成績もすごいけど」
「それな」
「桜庭くんがいつもクラス委員の仕事を頑張ってくれてるのも俺たち知ってるよ」
僕が誘ってもらえたのは99%たっちゃんのおかげだけれど、クラス委員の仕事をしていた僕のことも彼らが気づいてくれていたことが嬉しかった。
同じクラスの陸上部の3人は穏やかな性格で一緒に居ても緊張しなくて済むし、かといって共に過ごすことを強制されることもない距離感がちょうどよい存在。
僕は昼休みは相変わらず映像研究部の部室でお弁当を食べている。
――一人で。
あれから本当に琉唯は部室にやってこない。
連絡が来ることもない。
琉唯は近隣国と共同出資の大作映画に日本側のメインキャストで出演すると最近メディア発表されていて、ここ数ヶ月、国を行き来して撮影していたらしい。
それを僕が知ったのは朝の情報番組だったけど。
確かに琉唯が学校にほぼ顔を見せていないと同じクラスの女子たちが寂しがっていた。
いつの間にか屋外では身震いするほど寒くなって、冬は人肌が恋しい季節なんていうけど、今年はその感覚がこれかとわかってしまう。
――琉唯の体温を感じたい。
映像研究部の部室だって琉唯とのちょっとした思い出がふとした瞬間によみがえって、余計に一人を際立たせて……。
振られたくせに未練がましく、ずっと琉唯だけを想っていた。
結局”タイミング”がわからなくて、宮永さんに連絡も出来ず、宮永さんとしばらく顔を合わせていない。
向こうからも連絡がこないということは僕の”タイミング”を尊重してくれているのだろう。
期末考査が終了し、ホリデーシーズンと冬休みを前に高揚している街並みとは裏腹に僕は気分が晴れることはなかった。
――今年もこのまま終わるんだろうな……。
そんな風に思いながら、僕は放課後に映像研究部の部室で映画を観ていた。
もう何度も観ている咲良菜緒が主演している『夢幻の春』。
僕も琉唯も咲良菜緒の出演作の中で一番好きなもの。
――咲良菜緒って恋をしていたんだろうな……。
僕が観ているのは役の上での咲良菜緒なのに、何となくそんな風に思えてきた。
それはきっと僕も恋心を知ったからだろう。
切なくて苦しくて、それでもたった一人に心が動かされて求めてしまう……。
――琉唯に会いたい……。
募りすぎて、僕はおかしくなったのかもしれない。
エンドロールが流れていた時に、急に部室の扉が開いて、飛び出そうなほど心臓が跳ねて……。
「琉唯……?」
そこに居るのが琉唯に見えるなんて。
映画の後は決まって余韻に浸るから現実との境界線がぼやけているせい。
「――優陽」
心地よく深みのある低音だって琉唯の声だ。
ずっと僕の名前をまた呼んでほしくて。
「――今から俺と来い」
「へ?」
ソファーに腰を埋めていた僕の腕を琉唯に引かれ、問答無用で起立させられる。
「行ける、行けない、どっち?」
いやいや、ずっと会いたくて会いたくて仕方なかった琉唯がいきなり現れたかと思えば、綺麗な顔で二択を突きつけてきて。
展開が早すぎてついていけない。
「……行けます」
こうして僕は約4ヶ月ぶりに琉唯と顔を合わせているにも関わらず、学校まで迎えに来ていた蝶野さんが運転する車の後部座席に琉唯と並んで座っていた。
こんなシチュエーション、琉唯のお父さんが倒れて緊急手術を受けた時以来だ。
また病院かもと思ったけど、たどり着いた先には聳え立つガラス張りのビルディング。
ここシムプロの本社?
琉唯が何も喋らないから、頭に浮かんだはてなマークは一つも解消しないまま、エントランス前に寄せられた車を先に二人で降りて、エレベーターに乗せられた。
たどり着いた先には“社長室“と札のある扉からして厳かな部屋。
「失礼します」
中からの返事も待たずに扉を開ける。
琉唯は僕の手首を掴んだまま、入室していった。
「琉唯……と桜庭優陽……?」
「――お待たせしてすみませんでした」
「……何? 琉唯に呼ばれたと思ったら、どういうことなの?」
中央の応接セットの椅子にはノアさんが座っていて、奥の執務デスクには滝川社長がエグゼクティブチェアに腰かけていた。
シムプロの社長室に揃う滝川社長、ノアさん、そして琉唯と僕の4人……。
この状況、何?
ノアさんの表情にはあからさまに怒気が現れてきているし、滝川社長はポーカーフェイスながらも琉唯ではなく僕を見ながら僅かに眉を顰めていた。
疑問符が増える一方でどうしていいのかわからず、僕は琉唯の隣で黙っていた。
「――俺は優陽が好きだ」
突然、飛び出した琉唯からの告白。
琉唯は僕に伝えるためというよりは、まるでこの場にいる全員へと宣言するように言い渡した。
琉唯が僕を好き……?
これ以上、疑問を増やされたら、僕の頭はパンクしてしまう。
「何なの!? ふざけないで!」
ノアさんが応接セットのテーブルを両手でバンッと叩いて立ち上がった。
「身体だけならいくらでもノアにくれてやるって思ってた。でも、今は優陽以外には俺の何もかもをやりたくない」
「何を言って……」
「俺は優陽だけを見ていたい。こんなに誰かを欲しいと思ったことなんてない」
琉唯は毅然とした態度でノアさんに言い放つ。
僕が状況認識が遅延している間にも、女子に憧れられるノアさんの今どきの美人顔が険しい形相になっていく。
今年も季節は巡り、カレンダーは最後の一枚となっていた。
11月中旬に実施された北海道への修学旅行は意外にも楽しい思い出が出来た。
9月早々に行われた班決めの時から、ぼっちの僕はどこにも所属できず厄介者になるのだろうと思ったけど、同じクラスの陸上部の男子3人が僕に誘いの声をかけてくれた。
「実は俺たち桜庭と話してみたいと思ってた」
「桜庭くんは七嶋くんと仲良しだもんな」
「七嶋のお気に入りの人間に悪いやつがいるはずないし」
「七嶋くんには言わないでほしいんだけど、俺たち七嶋くんを尊敬してるの」
「アイツのコミュ力えぐいって。成績もすごいけど」
「それな」
「桜庭くんがいつもクラス委員の仕事を頑張ってくれてるのも俺たち知ってるよ」
僕が誘ってもらえたのは99%たっちゃんのおかげだけれど、クラス委員の仕事をしていた僕のことも彼らが気づいてくれていたことが嬉しかった。
同じクラスの陸上部の3人は穏やかな性格で一緒に居ても緊張しなくて済むし、かといって共に過ごすことを強制されることもない距離感がちょうどよい存在。
僕は昼休みは相変わらず映像研究部の部室でお弁当を食べている。
――一人で。
あれから本当に琉唯は部室にやってこない。
連絡が来ることもない。
琉唯は近隣国と共同出資の大作映画に日本側のメインキャストで出演すると最近メディア発表されていて、ここ数ヶ月、国を行き来して撮影していたらしい。
それを僕が知ったのは朝の情報番組だったけど。
確かに琉唯が学校にほぼ顔を見せていないと同じクラスの女子たちが寂しがっていた。
いつの間にか屋外では身震いするほど寒くなって、冬は人肌が恋しい季節なんていうけど、今年はその感覚がこれかとわかってしまう。
――琉唯の体温を感じたい。
映像研究部の部室だって琉唯とのちょっとした思い出がふとした瞬間によみがえって、余計に一人を際立たせて……。
振られたくせに未練がましく、ずっと琉唯だけを想っていた。
結局”タイミング”がわからなくて、宮永さんに連絡も出来ず、宮永さんとしばらく顔を合わせていない。
向こうからも連絡がこないということは僕の”タイミング”を尊重してくれているのだろう。
期末考査が終了し、ホリデーシーズンと冬休みを前に高揚している街並みとは裏腹に僕は気分が晴れることはなかった。
――今年もこのまま終わるんだろうな……。
そんな風に思いながら、僕は放課後に映像研究部の部室で映画を観ていた。
もう何度も観ている咲良菜緒が主演している『夢幻の春』。
僕も琉唯も咲良菜緒の出演作の中で一番好きなもの。
――咲良菜緒って恋をしていたんだろうな……。
僕が観ているのは役の上での咲良菜緒なのに、何となくそんな風に思えてきた。
それはきっと僕も恋心を知ったからだろう。
切なくて苦しくて、それでもたった一人に心が動かされて求めてしまう……。
――琉唯に会いたい……。
募りすぎて、僕はおかしくなったのかもしれない。
エンドロールが流れていた時に、急に部室の扉が開いて、飛び出そうなほど心臓が跳ねて……。
「琉唯……?」
そこに居るのが琉唯に見えるなんて。
映画の後は決まって余韻に浸るから現実との境界線がぼやけているせい。
「――優陽」
心地よく深みのある低音だって琉唯の声だ。
ずっと僕の名前をまた呼んでほしくて。
「――今から俺と来い」
「へ?」
ソファーに腰を埋めていた僕の腕を琉唯に引かれ、問答無用で起立させられる。
「行ける、行けない、どっち?」
いやいや、ずっと会いたくて会いたくて仕方なかった琉唯がいきなり現れたかと思えば、綺麗な顔で二択を突きつけてきて。
展開が早すぎてついていけない。
「……行けます」
こうして僕は約4ヶ月ぶりに琉唯と顔を合わせているにも関わらず、学校まで迎えに来ていた蝶野さんが運転する車の後部座席に琉唯と並んで座っていた。
こんなシチュエーション、琉唯のお父さんが倒れて緊急手術を受けた時以来だ。
また病院かもと思ったけど、たどり着いた先には聳え立つガラス張りのビルディング。
ここシムプロの本社?
琉唯が何も喋らないから、頭に浮かんだはてなマークは一つも解消しないまま、エントランス前に寄せられた車を先に二人で降りて、エレベーターに乗せられた。
たどり着いた先には“社長室“と札のある扉からして厳かな部屋。
「失礼します」
中からの返事も待たずに扉を開ける。
琉唯は僕の手首を掴んだまま、入室していった。
「琉唯……と桜庭優陽……?」
「――お待たせしてすみませんでした」
「……何? 琉唯に呼ばれたと思ったら、どういうことなの?」
中央の応接セットの椅子にはノアさんが座っていて、奥の執務デスクには滝川社長がエグゼクティブチェアに腰かけていた。
シムプロの社長室に揃う滝川社長、ノアさん、そして琉唯と僕の4人……。
この状況、何?
ノアさんの表情にはあからさまに怒気が現れてきているし、滝川社長はポーカーフェイスながらも琉唯ではなく僕を見ながら僅かに眉を顰めていた。
疑問符が増える一方でどうしていいのかわからず、僕は琉唯の隣で黙っていた。
「――俺は優陽が好きだ」
突然、飛び出した琉唯からの告白。
琉唯は僕に伝えるためというよりは、まるでこの場にいる全員へと宣言するように言い渡した。
琉唯が僕を好き……?
これ以上、疑問を増やされたら、僕の頭はパンクしてしまう。
「何なの!? ふざけないで!」
ノアさんが応接セットのテーブルを両手でバンッと叩いて立ち上がった。
「身体だけならいくらでもノアにくれてやるって思ってた。でも、今は優陽以外には俺の何もかもをやりたくない」
「何を言って……」
「俺は優陽だけを見ていたい。こんなに誰かを欲しいと思ったことなんてない」
琉唯は毅然とした態度でノアさんに言い放つ。
僕が状況認識が遅延している間にも、女子に憧れられるノアさんの今どきの美人顔が険しい形相になっていく。



