表示されているのは「R」とたった一文字のアルファベット。
琉唯が僕に電話をかけてきている。
スマホを持ち上げた時、自分の手が緊張なのか震えているのを自覚した。
「もしも……」
『優陽、今どこに居る?』
僕の言葉を遮るくらい性急に琉唯に居場所を尋ねられる。
琉唯の声が聞いたこともないくらい切迫していて、別の意味で胸が騒いだ。
「学校の……部室に居るけど……」
『優陽。頼む、今から俺と来て』
ただならない琉唯の弱々しい様子に僕も落ち着かなくなってくる。
『今から迎えに行く。だから俺と一緒についてきてほしい』
どこに? とか、どうしたの? 何があった? とか、聞きたいことは山ほどある。
けど、僕はただごとではない琉唯に説明は求めず、「うん。わかった」と了承の意だけ伝えた。
「――悪い。優陽」
「ううん……」
僕は今、華澄高校まで迎えに来た高級セダンの後部座席に琉唯と並んで座っていた。
学校の裏門に車を寄せてくれて、そこから人目につかないように乗り込んで今に至る。
運転しているのは琉唯のマネージャーの蝶野さんだ。
僕が顔を合わせるのは初めてだけど二十代後半くらいの温和そうな印象を受ける男性だった。
とはいえ、電話で誘導されて後部座席に乗り込んだからルームミラー越しに顔を確認できただけ……。
車内にはカーオーディオから流れるラジオ番組のDJの声だけが流れている。
車は少し薄暗くなってきた都内を走っていた。
――どこに向かっているんだろう。
念のため美織さんには今日は帰りが遅くなりそうだから、夕ご飯はいらないと伝えておいたけれど。
芸能人が乗っている車だからか、後部座席の窓ガラスのスモークは濃い。
隣の琉唯はキャップを目深にかぶっているし、僕に謝っただけで黙っているし……。
話さない……というより、話せないのだろう。
僕も琉唯と合わせるように黙っていたら、急に片手を握られた。
びくんと肩が跳ね上がる。
琉唯は俯いたまま、まるで僕に縋るようにその手をギュッと握りしめてきた。
――あの日以来、琉唯は僕に触れてこなかったのに……。
僕がそのままにされていることと今は黙っていることが、琉唯を受け止めているんだと僕の答えの最良になる気がして。
渋滞にはまりがちな都会の道路を進む車内では誰もが口を開かないまま僕は次第に夜の帳が下りていく車窓を眺めていた。
到着したのは城西エリアにある緑豊かな住宅街に佇んでいた大きな病院だった。
蝶野さんが病院の車寄せに一時停車させると、琉唯は僕の手を握ったまま車を降りようとしたから素直にそれに続く。
足早に病院の中へと足を進める琉唯。
琉唯と身長も足の長さも違うから僕は必然的に小走りになった。
――僕に気を遣えないくらい琉唯に余裕がなくなるなんて……。
病院は祝日で外来はやっていないのだろう。
最低限の照明に照らされた吹き抜けの広いエントランスと受付兼会計カウンター前の待合いの多数の椅子は無人。
ひどく物静かで不安を冗長させた。
「――琉唯くん!」
エレベーターホールから50代くらいの女性が早足で近づいてきた。
「須山さん。父さんは!?」
琉唯も須山さんと呼んだ女性に僕の手を引いたまま、駆け寄っていく。
僕の手を引く琉唯の手が少し震えたのが伝わった。
「オペ室に入ったまま、まだ出てきていないの。行きましょう」
須山さんの後に琉唯は続いていく。
2人の様子から緊迫した空気が僕にも伝染してくる。
エレベーターに3人で乗り込み、上昇していく中でも須山さんは琉唯に説明していた。
「昼過ぎくらいに急に吐血して、全身の痙攣が止まらなくなってしまって。病院の方に搬送したの」
そう琉唯に説明している須山さんが僕のほうを一瞥した後、繋がれている手に視線を落とした。
――琉唯と一緒に居る僕のこと、いったい誰なんだと思っているのだろう。
でもキャップを目深にかぶり、焦りと不安に襲われている琉唯には今する質問ではないと控えているのがわかった。
状況から察するに恐らく琉唯の父親が倒れて、手術室に入っているのだろうってことは想像できた。
琉唯が僕に電話をかけてきている。
スマホを持ち上げた時、自分の手が緊張なのか震えているのを自覚した。
「もしも……」
『優陽、今どこに居る?』
僕の言葉を遮るくらい性急に琉唯に居場所を尋ねられる。
琉唯の声が聞いたこともないくらい切迫していて、別の意味で胸が騒いだ。
「学校の……部室に居るけど……」
『優陽。頼む、今から俺と来て』
ただならない琉唯の弱々しい様子に僕も落ち着かなくなってくる。
『今から迎えに行く。だから俺と一緒についてきてほしい』
どこに? とか、どうしたの? 何があった? とか、聞きたいことは山ほどある。
けど、僕はただごとではない琉唯に説明は求めず、「うん。わかった」と了承の意だけ伝えた。
「――悪い。優陽」
「ううん……」
僕は今、華澄高校まで迎えに来た高級セダンの後部座席に琉唯と並んで座っていた。
学校の裏門に車を寄せてくれて、そこから人目につかないように乗り込んで今に至る。
運転しているのは琉唯のマネージャーの蝶野さんだ。
僕が顔を合わせるのは初めてだけど二十代後半くらいの温和そうな印象を受ける男性だった。
とはいえ、電話で誘導されて後部座席に乗り込んだからルームミラー越しに顔を確認できただけ……。
車内にはカーオーディオから流れるラジオ番組のDJの声だけが流れている。
車は少し薄暗くなってきた都内を走っていた。
――どこに向かっているんだろう。
念のため美織さんには今日は帰りが遅くなりそうだから、夕ご飯はいらないと伝えておいたけれど。
芸能人が乗っている車だからか、後部座席の窓ガラスのスモークは濃い。
隣の琉唯はキャップを目深にかぶっているし、僕に謝っただけで黙っているし……。
話さない……というより、話せないのだろう。
僕も琉唯と合わせるように黙っていたら、急に片手を握られた。
びくんと肩が跳ね上がる。
琉唯は俯いたまま、まるで僕に縋るようにその手をギュッと握りしめてきた。
――あの日以来、琉唯は僕に触れてこなかったのに……。
僕がそのままにされていることと今は黙っていることが、琉唯を受け止めているんだと僕の答えの最良になる気がして。
渋滞にはまりがちな都会の道路を進む車内では誰もが口を開かないまま僕は次第に夜の帳が下りていく車窓を眺めていた。
到着したのは城西エリアにある緑豊かな住宅街に佇んでいた大きな病院だった。
蝶野さんが病院の車寄せに一時停車させると、琉唯は僕の手を握ったまま車を降りようとしたから素直にそれに続く。
足早に病院の中へと足を進める琉唯。
琉唯と身長も足の長さも違うから僕は必然的に小走りになった。
――僕に気を遣えないくらい琉唯に余裕がなくなるなんて……。
病院は祝日で外来はやっていないのだろう。
最低限の照明に照らされた吹き抜けの広いエントランスと受付兼会計カウンター前の待合いの多数の椅子は無人。
ひどく物静かで不安を冗長させた。
「――琉唯くん!」
エレベーターホールから50代くらいの女性が早足で近づいてきた。
「須山さん。父さんは!?」
琉唯も須山さんと呼んだ女性に僕の手を引いたまま、駆け寄っていく。
僕の手を引く琉唯の手が少し震えたのが伝わった。
「オペ室に入ったまま、まだ出てきていないの。行きましょう」
須山さんの後に琉唯は続いていく。
2人の様子から緊迫した空気が僕にも伝染してくる。
エレベーターに3人で乗り込み、上昇していく中でも須山さんは琉唯に説明していた。
「昼過ぎくらいに急に吐血して、全身の痙攣が止まらなくなってしまって。病院の方に搬送したの」
そう琉唯に説明している須山さんが僕のほうを一瞥した後、繋がれている手に視線を落とした。
――琉唯と一緒に居る僕のこと、いったい誰なんだと思っているのだろう。
でもキャップを目深にかぶり、焦りと不安に襲われている琉唯には今する質問ではないと控えているのがわかった。
状況から察するに恐らく琉唯の父親が倒れて、手術室に入っているのだろうってことは想像できた。



