桜月夜に、言葉よりも強く君を抱き締めて。

 低く甘く響いた、その声。
 僕は弾かれるように校門へと走り出した。

 「おい、待てって!」

 静止の声も聞かず、僕は一心不乱に足を動かし風のように走り去る。
 ――今、なんて言われた?
 はっきりと名前を言われた。
 僕を見て、“咲良菜緒“だって。
 僕のお母さんの名前を……。
 もちろん僕は咲良菜緒じゃない。
 それに伝説の女優・咲良菜緒に子どもが居たことはトップシークレット。
 咲良菜緒が極秘で妊娠して、僕の出産時に亡くなったことはごく一部の人間しかしらない。
 走り続けて、たどり着いた先の誰もいない小さな公園で立ち止まる。
 荒い呼吸はなかなか整わず、身体が熱を帯びたように熱く、額からはとめどなく汗が流れた。
 ――これが僕、桜庭(さくらば) 優陽(ゆうひ)と琉唯の出会いだった。