髪から僕の頬へと琉唯の指が撫でるように下りてくる。
素肌が体温を伝えてくる感覚には慣れることがなくて、ぎゅっと目を閉じた僕の肩が跳ね上がった。
「優陽のかわいさは俺が独占していたいからいっか」
琉唯は僕の頬の感触を確かめるのが琉唯は好きなようで、しょっちゅう触れてくる。
僕じゃなくて僕を通して咲良菜緒を見ているくせに……。
なんて、もし言葉にしたら琉唯は何て答えるのだろう?
「俺、スカウトされて事務所に所属してから顔だけだって言われまくった」
「え? 琉唯が?」
「演技が全くできなくて。端役ですらオーディションは一つも通らなかった。『素材は一級品でも大根は使えない』って表でも陰でもバカにされて悔しかった」
意外だった。
今では俳優として演技力が認められ、3年先のスケジュールまで埋まっている引っ張りだこの琉唯が経験していた苦悩と挫折。
そういえばネットで調べた琉唯のプロフィールでは小4でスカウトされて中2でブレイクするまで出演歴の欄がほぼなかった。
「それで社長に直談判しに行った。どうしたら演技が上達するか、演技を勉強するなら誰をロールモデルにすればいいか」
大手芸能事務所ジムプロダクションの社長は確かノアさんの父親だ。
「社長から演技を参考にするなら咲良菜緒がいいって言われた。出演作を全て最低3回は見ろって言われて、当時、小5だった俺は咲良菜緒なんて知らないし、3回も同じ映画を見られるわけないし、女かよって思ってたんだけど」
「……」
「デビュー作の『夜ひらく花』から完全に魅了された。どれも演じているんじゃなくて自然すぎて演技に見えなくて、衝撃を受けた。俺もこうなりたいって思って3回どころじゃなくて全作どれだけ観まくったのか、咲良菜緒の出演作を徹底的に研究した。表情から間の取り方、身体の動き、発声や息遣い、滑舌まで全部。事務所の演技レッスンでも徹底的にしごいてもらった」
「……」
「それでも、やっぱり目に見えて上達しないし、自分に才能ないのに、こんなの続けて意味があるのか苦しくて辞めてやりたいって思いながらも食らいついて2.3年続けてたら、急にガッと目の前の扉が開いた感覚が訪れた瞬間があって」
「……」
「そこからか。オーディションに通るようになって、ドラマも映画も決まって、だんだん出番が多くなって、名前が知られだして、仕事のオファーがきて主演も任されるようになって、今に至る。みたいな」
「……」
「この仕事って制約も多いけど、撮影の現場に入れるのが嬉しくてたまらない」
琉唯がこんなに僕に打ち明けてくれるなんて……。
出会ったばかりの頃、
『この仕事してるのも金目当てってだけ』
そんなことを琉唯は言っていたのに。
僕もセブファク所属の役者さんたちと関わる機会が多かったから、普通の人よりは少しだけ芸能界の裏側もわかると思う。
僕がまだ小学校に上がる前、宮永さんが映画で病魔に蝕まれて衰弱していく役を演じた時、撮影の進行に合わせてガリガリになるまで身体を絞り上げていた。
段々と顔にも生気がなくなっていって、僕は本当に宮永さんが死んでしまうんじゃないかと怖くて大泣きをした経験がある。
それほど作品ごとに役作りを徹底してるし、役に憑依していく。
「長々と語って悪い」
「ううん。僕に話してくれてありがとう」
琉唯は少し照れくさそうに僕から視線を外した。
「あ、そうだ。優陽、ここの英文解釈の問題がわからなかったんだけど」
「どれ?」
琉唯に教科書を見せられて覗き込む。
僕は琉唯に質問されたところの説明をしながら、鉛のような空の色と同じく気持ちが塞いでいくのを感じていた。
琉唯は容姿が好みだとか単純な理由で咲良菜緒を好きなわけではなく、自分の目標として追い続けている存在。
例え今、生きていなかったとしても、こうして誰かに大きな影響を与えてしまう咲良菜緒。
――ここに居るのが僕でごめん……。
心の中で琉唯にそっと謝った。
素肌が体温を伝えてくる感覚には慣れることがなくて、ぎゅっと目を閉じた僕の肩が跳ね上がった。
「優陽のかわいさは俺が独占していたいからいっか」
琉唯は僕の頬の感触を確かめるのが琉唯は好きなようで、しょっちゅう触れてくる。
僕じゃなくて僕を通して咲良菜緒を見ているくせに……。
なんて、もし言葉にしたら琉唯は何て答えるのだろう?
「俺、スカウトされて事務所に所属してから顔だけだって言われまくった」
「え? 琉唯が?」
「演技が全くできなくて。端役ですらオーディションは一つも通らなかった。『素材は一級品でも大根は使えない』って表でも陰でもバカにされて悔しかった」
意外だった。
今では俳優として演技力が認められ、3年先のスケジュールまで埋まっている引っ張りだこの琉唯が経験していた苦悩と挫折。
そういえばネットで調べた琉唯のプロフィールでは小4でスカウトされて中2でブレイクするまで出演歴の欄がほぼなかった。
「それで社長に直談判しに行った。どうしたら演技が上達するか、演技を勉強するなら誰をロールモデルにすればいいか」
大手芸能事務所ジムプロダクションの社長は確かノアさんの父親だ。
「社長から演技を参考にするなら咲良菜緒がいいって言われた。出演作を全て最低3回は見ろって言われて、当時、小5だった俺は咲良菜緒なんて知らないし、3回も同じ映画を見られるわけないし、女かよって思ってたんだけど」
「……」
「デビュー作の『夜ひらく花』から完全に魅了された。どれも演じているんじゃなくて自然すぎて演技に見えなくて、衝撃を受けた。俺もこうなりたいって思って3回どころじゃなくて全作どれだけ観まくったのか、咲良菜緒の出演作を徹底的に研究した。表情から間の取り方、身体の動き、発声や息遣い、滑舌まで全部。事務所の演技レッスンでも徹底的にしごいてもらった」
「……」
「それでも、やっぱり目に見えて上達しないし、自分に才能ないのに、こんなの続けて意味があるのか苦しくて辞めてやりたいって思いながらも食らいついて2.3年続けてたら、急にガッと目の前の扉が開いた感覚が訪れた瞬間があって」
「……」
「そこからか。オーディションに通るようになって、ドラマも映画も決まって、だんだん出番が多くなって、名前が知られだして、仕事のオファーがきて主演も任されるようになって、今に至る。みたいな」
「……」
「この仕事って制約も多いけど、撮影の現場に入れるのが嬉しくてたまらない」
琉唯がこんなに僕に打ち明けてくれるなんて……。
出会ったばかりの頃、
『この仕事してるのも金目当てってだけ』
そんなことを琉唯は言っていたのに。
僕もセブファク所属の役者さんたちと関わる機会が多かったから、普通の人よりは少しだけ芸能界の裏側もわかると思う。
僕がまだ小学校に上がる前、宮永さんが映画で病魔に蝕まれて衰弱していく役を演じた時、撮影の進行に合わせてガリガリになるまで身体を絞り上げていた。
段々と顔にも生気がなくなっていって、僕は本当に宮永さんが死んでしまうんじゃないかと怖くて大泣きをした経験がある。
それほど作品ごとに役作りを徹底してるし、役に憑依していく。
「長々と語って悪い」
「ううん。僕に話してくれてありがとう」
琉唯は少し照れくさそうに僕から視線を外した。
「あ、そうだ。優陽、ここの英文解釈の問題がわからなかったんだけど」
「どれ?」
琉唯に教科書を見せられて覗き込む。
僕は琉唯に質問されたところの説明をしながら、鉛のような空の色と同じく気持ちが塞いでいくのを感じていた。
琉唯は容姿が好みだとか単純な理由で咲良菜緒を好きなわけではなく、自分の目標として追い続けている存在。
例え今、生きていなかったとしても、こうして誰かに大きな影響を与えてしまう咲良菜緒。
――ここに居るのが僕でごめん……。
心の中で琉唯にそっと謝った。



