桜月夜に、言葉よりも強く君を抱き締めて。

 固まる僕に対して、僕の意思はどうでもいいのか「早くスマホ出せ」と琉唯は促してきた。

 「優陽が心配しなくても誰にも言わないし、ばれないようにするから安心しろ」
 「うーん……」
 「俺も他のやつに知られたくねぇよ。優陽と俺だけの秘密だろ」

 そんなことをさらりと言ってのけながら、琉唯は手際よく僕のスマホを操作し始めた。
 僕のLINEには「R」という名前が追加される。
 同級生はたっちゃんくらいしか登録されていない僕の【友だち】に人気俳優である一条琉唯本人と繋がってしまったことが不思議でならない。

 「言いふらさないよね?」
 「何が?」
 「僕の素顔のこと」
 「優陽の心がけ次第だろ」

 老若男女問わず、誰をも陶然とさせそうな笑顔で言われる。
 どこか僕で面白がられているような気がしなくもない。

 「やっと優陽を見つけたんだ。絶対に逃がさねぇよ」

 腰砕けになりそうなほど、どこか甘く色気のある低い声を僕の耳元で残して、琉唯は先に退室していった。
 僕と一緒に部屋を出るのはまずいとわかってくれているのだろう。
 時差帰宅なんてアリバイ工作みたいだ。
 ――何だか大変なことになってしまった……。
 まさか僕の羽を休められる憩いの場が一条琉唯に見つかるなんて……。
 でも、はっきりわかるのは、琉唯は僕を探してたっていうより、咲良菜緒を探していただけだ。
 僕は『星屑の街並みで』の感想をノートに書いて、下校時刻ギリギリまで宿題や勉強をして映像研究部の部室を後にした。