桜月夜に、言葉よりも強く君を抱き締めて。

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 僕の16歳の誕生日会は定刻通り18時から行われた。
 会場は芸能事務所セブンスターファクトリーの3階建ての本社ビル兼自社スタジオにある2階会議室。
 ちょうど七嶋家の自宅と華澄高の中間地点くらいに位置している。
 会議室のテーブルには種類豊富なオードブルや飲み物が並んでいる立食形式でそれぞれに飲み食いして歓談中。
 みんなに「誕生日おめでとう」の言葉をかけられ、注目を浴びるのが苦手な僕は気恥ずかしながらもお礼を伝えて、ケーキの1と6のロウソクに灯っている火を吹き消した。

 「ここぞとばかりに優陽は食っとけよ。こんなに薄っぺらい身体で次に台風がきたら飛ばされるって」
 「とばされないよ」

 ちゃんと18時までに到着したたっちゃんは取り皿いっぱいにエビフライだのミートボールだのハンバーグだの子どもが好みそうなおかずを載せている。
 ここに集まっているのはセブファクの事務所関係者。
 それも咲良菜緒が生前に関わりのあった人物だけ。
 セブファク内でも咲良菜緒が隠し子を産んでいたことは一部の人間しか知らない。
 この会場の飲食物もたっちゃんの母親である美織さんとセブファクのバックオフィスを20年も支え続けているベテランの事務スタッフの女性とで準備してくれたんだろう。
 かつて咲良菜緒が所属していたセブファクは主演をはるまではいかなくても5番目くらいにはクレジットされる名脇役と呼ばれる演技派の20代~50代の俳優が複数人在籍していて、派手さはないものの堅調な業績を維持し続けている。
 その堅調な業績を上げ続けていられるのはたっちゃんの父親でもあり、セブファクの二代目社長でもあり、かつて咲良菜緒を見出し一流女優として育てあげた頼政(よりまさ)さんの力が大きい。
 社長でありながら所属俳優たちのマネージメント業務も積極的に行い、家庭のことは完全に美織さんに一任しているワーカホリックだ。

 「優陽」
 「は、はい!」
 「ここではその邪魔な眼鏡をとったらどうだ?」

 頼政さんはもう58歳だ。
 妻の美織さんとは17歳も年の差がある。
 ただ頼政さんは白髪染めをしていなかったとしても身体が絞られていて58歳には到底見えず、渋い声と眼力には妙な威圧感があって、僕は幼い時から頼政さんに話しかけられると妙に肩に力が入ってしまっていた。

 「これをかけてると落ち着くんです」
 「もったいないな。菜緒譲りの恵まれた顔立ちをそんな無粋なもので隠して」
 「……」

 恵まれて……いるのだろうか?
 僕が女の子だったら恵まれていたと思えたのかもしれない。
 この咲良菜緒に似た女顔に活路を見つけられたかもしれない。
 たまたま咲良菜緒に顔が似ているだけって台詞も通用して、きっと稀世(きせい)の美少女としてすごくモテただろう。
 でも、男にしては不自然なほど咲良菜緒に似ている僕はやはり不自然で。
 隠し子なんだから隠れないといけなくて……。

 「あの頼政さん、新しい電子辞書ありがとうございました」
 「優陽が遠慮する必要はない。菜緒には優陽が仮に何人いたとしても大学までの教育資金や生活費にいたるまで余裕で利益ださせてもらってる。ほしいものがあったら遠慮なく美織に言ってくれ」
 「……はい」

 とは言っても物欲が薄くて学校関係の必需品以外にほしいものが浮かばない。
 僕が生まれた時から保護者代わりとして実の息子のたっちゃんと差別なく育ててくれているだけで頼政さんにも美織さんにも感謝しかなかった。

 「じゃあ俺、ワイヤレスイヤホンなくしたから、新しいの買ってほしいんだけど」
 「また侑は失くしたのか? これで何個目だ。優陽を見習って侑もモノを大事にしなさい」
 「父さんも母さんも俺に優陽を見習えって言い過ぎ。優陽は学校でも一番の優等生なんだから、俺には真似できない。無理」

 たっちゃんが頼政さんに口答えする。
 頼政さんに意見できるのはたっちゃんと……。

 「優陽。これ誕生日プレゼントと北海道土産。渡すの遅れて悪かったな」

 僕に紙袋を渡してきた中堅俳優の宮永さんくらいだろう。