……ちょっと、なんなのこの学校!
終業式が終わったと思ったら、次の日から冬期講習なんて。
わたし、聞いてないんですけど!
「いや……高嶺。予定表にのってただろ?」
「『冬休み』って書いてあったじゃん!」
「休みにやるから講習だろ。そうでなきゃただの授業になる」
……ちょっと! アンタなんなわけ?
そのさぁ。
知ってるだろう・当たり前だろう・常識だろうみたいないいかた!
「だいたい、アンタにいわれるってのがおかしいし!」
「なんでだ?」
「だってアンタさぁ。高校生にもなってサンタがっ……」
「キ・ャ・〜!」
ウグっ……。
姫妃ちゃんが、いきなりわたしに抱きついてきて……。
く、苦しいんですけど……。
「……受験生が隣にいるのよ、静かにしなさい」
「楽しそうだけど。ご、ごめんねぇ……」
月子ちゃんに、美也ちゃん。
優等生的発言、いいですよね!
でも、だったらついでに。
このバカに、ズバリ教えてくれたらいいのに!
あと、佳織先生と響子先生も。
さっきからずっとパンばっかり食べてないでさぁ。
いっそのこと、コイツにいってやってよ!
「ねぇ由衣……そっとしておいてあげようよ……」
えっ、玲香ちゃん!
もしかして、悟ったの?
それとも諦めたの?
「童心のまま、おとなになれるなんて。なかなかないことだよ」
なにそれ。まさか……受け入れてないよね?
「なあ高嶺、どこか調子でも悪いのか?」
……ったく。
そう聞いてくるアンタのせいだよ、この状況。
調子狂うに、決まってるじゃん。
あぁ……昨日は。
せっかくいい終業式だったと思ったのに……。
わたしは、不思議そうな顔でわたしをみる。
目の前の超鈍感男のセリフを、頭の中で再生する。
「サンタクロースさんへのお願いって、なににしましたか?」
なんなの、アンタ?
比喩表現とか、絶対無理な鈍感男が口にしたってことは……。
あれ、絶対本物のサンタさんの話ししたんでしょ?
だったらさぁ、みんなに聞くけど。
もうわたしたち、高校生なんだから。
サンタなんてもういない。
……そう教えてあげたら、ダメなわけ?
……せっかくの、章の冒頭なのに。『逆ギレパート』で出番を終えたと。
いつかまた、高嶺には怒られそうだけれど。
すまんがいったん。
僕に、話しをさせてくれ……。
サンタクロースなんてもういない。
そんなことくらい、『僕は』わかっている。
でも僕としてはこれ以上、『三藤先輩が』信じていることについて。
結論を伸ばすわけには、いかなかったのだ。
確かにタイミングとしては、微妙だった。
でも、あの雰囲気だったからこそ。
「もう高校生よ、信じてなんていないわ……」
先輩がそう答えてくれれば、終われたことだったのに……。
それに加えて、先生たちがやってきたあとも。
『誰ひとりとして』、僕の質問に答えてくれなくなるなんて……。
正直とんでもなく、予想外だった。
あぁ……どうしよう……。
まさか、高校生にもなって。
あるいは、元・高校生にもなって。
まだ『みんな』が、サンタクロースを『信じている』なんて……。
この部活のみんなが。
夢見る夢子ちゃんみたいなひとたちばかりだったなんて、ある意味悪夢だ。
全員が、十六歳以上。
おまけに先生たちなんて……何歳か知らないけれど……。
この僕がいまさら、みんなに向かって。
サンタなんていないよと夢を打ち砕くなんてこと。
できるわけ、ないじゃないか……。
ただ、よくわからないけれど。
三藤先輩はパソコンも使うし、本もたくさん読むんだから。
そこに事実が書いてあったりしないんだろうか……?
そうか! 先輩は古典好きだ。
ということは、平安時代にはサンタクロースは出てこない。
日本書紀にだって登場しないから……。
あぁ……そうしたら知りようがないってことなのか?
「……でも、スパイ小説読みますよね?」
「急に、ど、どうしたの海原くん?」
「あと、恋愛小説読むんですよねっ?」
「た、たまたまなのよ!」
えっ……もしかして。
三藤先輩、怒っちゃったんですか?
「ねぇ昴君……どうしたの?」
「れ、玲香ちゃん!」
「……ごめん、なに?」
ダメだ、すでに警戒されている……。
「な・に・な・に?」
波野先輩か……頭の中、お花畑のときがあるから……。
クリスマスが近いのに、聞けそうもないよなぁ……。
「な・ん・か! 感じ悪いこと考えてない?」
い、いや別に……すいません。
「あ、あの……大丈夫、海原君?」
頼みの都木先輩。
でも、たまにぶっ飛んだことをするだけあって。
やっぱり天然、じゃなくて純情なんだよな、きっと……。
「いえ、受験の差し障りになってはいけないのでやめておきます」
「えっ……逆に気になるんだけど?」
「大丈夫です! 最後に聞きます!」
「わたしが教えてもらえるのって……『最後』なの……?」
マズイ……またなにか勘違いをさせてしまったようだ……。
高嶺のその顔は、なんだか関わりたくないというか。
とりあえず明らかに……いまじゃないんだよな。
「ちょっとさぁ〜。平気なの〜海原君?」
藤峰先生なんて、俗物の塊。
いやそうじゃなくて、現実主義者だから。
「え、サンタさんいないの? まぁ無料でプレゼントくれたら誰でもオッケー!」
……とかいうだけだろう。
「……ということは、代わりに『くれる相手』を見つけない限り無理だろうから」
「え?」
「永遠に、無理だよな……」
「は?」
「な・ん・か、結構失礼な妄想はいってない?」
「わたしもそう思う」
「大丈夫かしら、海原くん?」
「もう、放っておきません?」
「もう、そっとしといてあげようよ」
みんながなにか、僕について口にしていて。
最後に、藤峰先生が。
「知ったら殺意が芽生えそうな気がするけどね、わたしは」
妙に恐ろしいことを口走った気がするけれど。
……そのとき。
「ん?」
ある意味で。
一番『読めない人』と、目が合った。
高尾先生……か。
「あの……ちょっと『調べ物』にいってきます」
「えっ、ちょっとアンタ?」
すまん、高嶺。
「海原くん、書類がいっぱいあるのよ?」
これも三藤先輩のため、なんですけどね……。
「戻ったら、きちんとやりますので……」
前章で『覚醒』した僕は、まだ健在だ。
そう、とにかく問題の解決のためには。動くのが肝心なのだから……。
……みんなの『心配』をよそに僕は『旅』に出る。
すべてはクリスマスのため。
いや、三藤先輩とみんなが信じるサンタクロースのためだ。
ただなんとなくだけれど。
解決の『鍵』が、高尾先生にある気がして。
「しばらく、失礼します」
僕はそう告げると。
……放送室をひとり、あとにした。

