素直に言えないことや、未だに治らない傷もあるけど、一緒にいる。
隣で眠れることが最大の幸せだ。
放課後、雅月は研究室のベッドに倒れて手を伸ばした。
「朋空先輩は、俺のどこが好きなんですか?」
「それ前も訊かなかったっけ?」
「可愛いばかり言ってて、あんまり分からなかったんです。見た目じゃなくて、中身のことを言ってほしいです」
ていうか見た目も可愛くないし、と雅月は口を尖らせた。
「あはは。ごめんごめん……もう、全部?」
「抽象的だなぁ……」
「しょうがないだろ。一目惚れからの全部惚れなんだから」
「どういうこと……!?」
アラームをセットしたものの、しばらく二人で向き合っていた。眠いけど、寝たくない。互いの息遣いに神経を集中し、触れ合っている。
どうしようもなく楽しい時間。満ち足りている時間。
( 惚れてるのは俺の方なのに )
朋空先輩の柔らかい髪に触れ、目を細める。
優しくて、でも自分の芯を持っていて、同じ歩幅で歩いてくれる。
高校を卒業して、大学でまた離れてしまったとしても、ずっと一緒にいたい。いや、必ず一緒になる。
密かに胸に誓い、彼にキスした。
「……そういう、意外と積極的なところも好きだよ」
「あはは。ありがとうございます」
笑って言うと、朋空先輩は俺の唇を指でなぞった。
「先輩?」
「なぁ。そろそろ、敬語やめろよ」
「えっ」
すっかり敬語が定着してたし、落ち着くから使っていたんだけど……先輩は少々不服そうに眉を寄せた。
でも敬語を外したら、一気に失礼な感じに聞こえそうで嫌なんだよな。
「せっ……先輩が卒業するまでは、このままじゃ駄目ですか」
「駄目」
先輩は譲らない。こうと決めたら結構頑固だ。それは昔も同じだったから知っている。
そういう先輩に惚れたんだし……仕方ないか。
でも簡単に了承するのは面白くない。どうせならもうちょい焦らそう、という意地悪な考えが浮かんだ。
「ほら、朋空」
「えぇ、どうしましょ。俺にも選択権がありますし」
先輩の腕枕に乗ったまま顔を背ける。
不貞腐れる姿が見たかったんだけど、そんなことでひるむ先輩じゃなかった。
「わっ!?」
腰を掴まれ、無理やり抱き寄せられる。そのまま唇を塞がれて、激しい口付けをされた。
「ん……んっ、ふ、ぅ……っ!」
ぴちゃぴちゃと、聞いたこともないいやらしい水音が響く。
熱くて柔らかくて、怖いのに気持ちいい。
段々息が苦しくなって、頭の中が真っ白になった。
やばい。このままとけちゃうかも……。
先輩に縋りついて息を求めると、ようやく唇が離された。
「確かに、決めるのは雅月の自由だな」
「じ、じゃあ……」
「でも俺は、昔みたいに接してほしいんだよな。可愛い声で“とも兄”って呼んでた頃みたいに」
「なっ!」
顔に火がついたようだ。恥ずかしくて口を開けしめすることしかできない俺に、朋空先輩は音の鳴るキスをしてきた。
「ま、弟とはこんなことしないけど!」
「……」
このひとは……。
可愛いのは間違いないんだけど、時々手に負えない。
世界で唯一の、不敵な恋人だ。
「呼び方は今のままでもいい?」
「あぁ」
「じゃあ、これから改めてよろしくね。……先輩!」
彼の胸に抱き着き、頬を擦り寄せる。
スタート地点に立ったと思ってたけど、俺達はちょっと寄り道をしていたのかもしれない。今になってようやく、道らしい道を見つけた気がした。
ここに来るまでが、また長かった。
お互い大好きなのに、変なところで躊躇していた。
もどかしいし、辛いことも多いけど、これが人を好きになるということなんだろう。
嫌われるのが怖い。傷つけるのが怖い。それは全部、大好きな人と向き合ってるときしか抱かない感情だから。
「よろしくな、雅月。……大好きだよ」
朋空先輩の瞳は、わずかに揺らいでいた。
目元が綺麗に光っている。思わず指ですくい、頷いた。
俺達は、きっと寝てるぶんスローペースた。でも、それでいい。
夢の中でも先輩のことを想っている。この先も、ずっと……。
優しい手引きを手にして、瞼を伏せる。
「絶対、もっともっと幸せにするからな」
「……うん」
先輩は怒りそうだから絶対言えないけど、皆の言うことはあながち間違いじゃなかった。
────眠り姫。
朋空先輩は俺にとって、本物のお姫様だった。


