放課後、空き教室で寝ていたときを思い出す。廊下で彼が寝ていたのは驚いたけど、本当ならあのまま知らないふりをして帰るべきだったんだ。
でもこんな場所に残して帰れないという想いと、……彼が自分に会いに来てくれた喜びに負けてしまった。
俺の信念はこんなにも脆かったのか……。
眠ってる雅月を抱き抱えて、深いため息をついた。
久しぶりにじっくり見た雅月は、昔とはまるで違った。当たり前だけど、どこからどう見ても立派な高校生。
( うわ……やばい )
可愛い。
第一に思った感想は、自分の変態っぷりを自覚するのに充分だった。
でも見た目だけじゃなく、中身もしっかり可愛いのが雅月だ。素直で元気がよくて、ちょっと泣き虫。
こんなに可愛いのは、……さすがにしんどい。
気が遠くなりそうな夢想をし、秋晴れの空を見上げた。
校門を抜け、昇降口に入ると不意に肩を叩かれた。
「朋空先輩っ。おはようございます」
「雅月」
俺の“大切”を具現化した存在。雅月が、嬉しそうに笑っていた。
「今日は早くないですか?」
「あぁ……眠れないから、早起きした」
「え、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ていうか、お前も早いじゃん」
上履きに履き替え、二人で廊下を歩く。
まだ生徒も少ないから、いつもより静かだった。
「俺もあんまり眠れなかったので……」
「……」
確かに、横顔でも疲れてるのが分かった。本当は今この場で抱き締めてあげたかったけど、必死で堪える。
元はと言えば、雅月に会わないように放課後に眠っていた。
なるべく遅く帰りたいという気持ちもあった。母が付き合ってる男の人はとても優しいけど、俺が家にいると申し訳ない気がして……なるべく二人の邪魔をしないよう、学校で時間を潰そうとしていたんだ。
帰りたいけど帰りたくない。相反する気持ちと、雅月を避けようとする気持ちが絡み合い、頭がおかしくなっていた。
俺も悪い奴だ。結局、最後は我慢できずに彼を手に入れようとしたんだから。
「朋空先輩」
「ん?」
底なし沼のような思考に足をとられた時、軽く手が触れた。掠めるような形で、雅月が俺の肩に寄りかかる。
「やっぱり俺……先輩といるときが一番眠れます」
綺麗なつむじを見下ろしながら、うん、と短く頷いた。
「俺も」と言いかけてやめてしまったのは、まだ恐れているからだ。
手放したくないのに、彼を傷つけてしまわないか考えている。傷つけるぐらいなら突き放すべきだと声が聞こえているから。
けどそんな想いを見透かすように、雅月は俺の手を取った。
「先輩も、もう俺の隣じゃないとよく眠れないと思うんです。なんで、これからもずっ…………と一緒にいましょう」
「雅月……」
「俺もこれからは先輩を支えるし、何も心配しないでください。大丈夫ですよ」
目の前に手が伸ばされる。
頬を優しく撫でたかと思えば、そのまま頭を撫でられた。
俺がいつも彼にしているみたいに。
「うん。先輩って、照れるとすごい可愛い」
「……からかうなよ」
「いつものお返しです」
雅月は悪戯っぽく笑い、手を離した。もう、全部が可愛い。可愛すぎて息が苦しい。
病的だ。彼の言う通り、俺は雅月がいないと駄目な体になってる。
「今日も放課後になったら、寝ようね!」
「そうだな」
放課後になったらめいっぱい抱き締めて、それで……あぁ、考えるのはよそう。マジで抜け出せなくなる。
もし俺が二年で彼が一年だったら、絶対心臓もたなかったな。三年になってからで良かった。


