帰ろうよ、朋空先輩



────朋空君って、本当に綺麗よね。

そんな言葉を何回言われただろう。
普通なら喜ぶことだろうけど、自分はうんざりしていた。見た目だけであれこれ想像を巡らせる大人、じろじろ見てくる他人、嫌みを言う同級生。全員が敵に見えた。

容姿を褒める言葉は呪詛のように聞こえる。多分、あの頃は軽くノイローゼにでもなってた気がする。小学生のときにそんな状態だから、学校の先生にも相当心配された。

俺が一方的に周りを跳ね除け、心を閉ざしてるように見えたらしい。君の態度にも原因があると言われて、何て返せばいいか分からなかった。

どっちが先に原因をつくったのか、という話をしてるみたいだ。けどそんなことすら考えてると疲れる。

もう何でもいいし、どう思われても構わない。先生が言うように、俺の性格が壊滅的なんだ。
日に日に卑屈になっていたときに、同じマンションに引っ越してきた少年と出会った。

彼は見るからに気弱そうで、クラスにひとりはいるタイプ、という印象だった。
母は、彼のお母さんとよく話していた。でも親が仲良いからって子どもも仲良くなきゃいけない理由はない。適当に挨拶して別れようと思ったけど。

……そういえば、いつも誰かを待ってるみたいだった。

ひとりが好きなタイプ、友達作りが苦手なタイプ……色々見てきたけど、その子はただ、時間が過ぎるのをじっと待っていた。

何をするでもなく、腫れた目でぼうっと空を見ている。初めて見かけたときは本気で心配したけど、段々色んなことを思うようになっていった。

どうせならゲームとかしてやり過ごせばいいのに、とか。俺ならいくらでも時間の潰し方を教えてあげられるのに、とか。勝手なことをたくさん考えた。

あとになって、ウチと同じく母親しかいない子なんだと知り、尚さら上手く生きろ、という気持ちが降って湧いた。
美人か必ずしも得するとは限らないが、弱いと生きづらいのは確かだ。

教えてあげたい。……けど。

自分から話しかける勇気は出ず、日々が流れた。そんなとき、偶然話すきっかけができた。
母と買い物に行った帰りに、公園にいる彼を見つけたのだ。

正直、やった、と思った。
そんな風に喜んだ自分にも内心びっくりした。今まで、誰かと話すが億劫で仕方なかったのに……俺はどうやら、彼とはずっと話してみたかったみたいだ。

不思議。

話し出してからのめり込むのも早かった。人見知りなのに自分には懐っこいところとか、遠慮がちに話すところとか。可愛い弟ができたみたいで、ずっと傍で守ってやりたいと思った。

それなのに、自分が原因で彼のことまで危ない目に遭わせてしまった。

謝っても謝りきれない。彼は……雅月は優しいから、自分を責めたりしないことは分かってる。それでも、彼の為に距離を置くべきだと感じた。
学校はもちろん、マンションでも彼とばったり会わないように気を遣った。会う回数を減らしていけば、自然と“他人”になる。俺のことなんて忘れて、他に気の合う友人や、好きな人ができる。

雅月に会いたい気持ちは強かったけど、彼の安全を思えばいくらでも殺すことができた。

でも、雅月が同じ高校に入学したときはかなり動揺した。

同じ一年生から話を聞くうちに、俺がいるとは知らずに入学したんだろうな、と思った。雅月はちょっと変わった同好会をつくって、ひとりでも楽しくやってそうだったから。

同じ学校内にいるのに、まるで顔を合わさずに過ごしている。それが不思議で、可笑しくて、……切ない。
自分が選んだ選択なのに、馬鹿みたいだ。

雅月に会わないように仮眠して過ごしていたら変な渾名をつけられて、逆に目立ったりもして。

でもそれが結果的に、雅月と再会するきっかけになった。