帰ろうよ、朋空先輩



そうだ、……これだ。
俺が先輩にしたいこと。喜んでほしいことは。

自分の部屋を出て、真っ直ぐキッチンに向かった。買ったは良いけど全然使ってなかったお弁当箱を取り出し、目の前に佇む。

問題は、やっぱり中身のラインナップ。眉間に皺を寄せながら考えていると、リビングでテレビを観ていた母がやってきた。

「あれ。雅月、お弁当持ってくの?」

母は、今まで時間がある時は俺に弁当を作って持たせてくれていた。仕事が忙しくなってからは俺も自分で作っていた。とは言え二年に上がってからは、めんどくさくて売店に頼ってしまっている。

でも今回は、自分の為に作るんじゃない。

「うん。とりあえず、明日だけ?」
「そうなの。お母さん作ろうか?」
「あ! ありがとう、俺が作るから大丈夫!」

俺が食べるわけじゃないし、俺が作らないと意味がない。母の提案は申し訳ないけど断り、久しぶりに弁当作りを開始した。
いつもご飯を作ってるのに、弁当に詰めるメニューとなると緊張する。

しかも、好きな人に渡すなら尚さら……。
とりあえず厚焼き玉子は上手くいった。甘めにしちゃったけど、彼の好みだったら良いな。
茹でブロッコリーとミニトマト、それから定番のウィンナー。メインはゆかりのおにぎり。彩りは我ながらばっちりだ。

……よし。完成!

何だかんだやってたら日付が変わりそうだった。
これで寝坊したら笑えない。すぐに台所を片付けて、明日の為にベッドに入った。

先輩、喜んでくれるかな……。
どきどきとわくわくが同じ量放出されて、アドレナリンが出まくってる。
結局また興奮して、あまり眠れなかった。

( でもちゃんと起きれたからオッケーってことにしとこう……。 )

ふらつきながら家を出る。いつもの時間に通学路へ出ると、朋空先輩を見つけた。
「先輩、おはやいございます」
「おはよう。何かろれつ回ってないけど、大丈夫か?」
先輩は振り向きざま、俺のことを心配そうに見つめた。

「何か目の下のクマもすごいし。……昨日寝てないのか?」
「いえ、ちょっとは寝ました。放課後寝るから大丈夫ですよ」

学校に到着し、校門を抜ける。人が多くなる前に渡そうと思い、手に持っていた紙袋を掲げた。

「朋空先輩。その……弁当作ってきたんです。め、迷惑じゃなければ……食べてください」
「弁当!?」
「わわっ。弁当です」

先輩は珍しく大声を上げた。俺もちょっとびっくりして、思わず萎縮する。
「あ……好き嫌いとかも知らないから、無理はしないでください」
「もらう。ありがとう」
「早ッ」
その後見せた俊敏な動きも驚いた。先輩は紙袋をうけとると、めちゃめちゃ足早で教室へ向かってしまった。

( だ、大丈夫かな…… )

ちょっと不安だけど、少なくとも嫌がられた感じじゃないか。ホッとし、眠い瞼を擦った。
大好きな人だから、眠くても張り切ってしまう。俺が一番好きだった“寝ること”は、朋空先輩が関わると一番後ろに追いやられるんだ。

恋人って、ほんとにすごい存在だなぁ……。