翌日も翌々日も、眠り姫は現れなかった。
俺に会いに行くよう伝えた、と赤城先輩からメッセージが来たけど、特段何もなく。
授業中、姿すら見ない人のことを考えて、窓の外に広がる空を見上げる。
平和なのか何なのか全然分からんぜ……。
高校生って結構大人だと思ってたけど、案外そうでもなかった。
小さなことを誇張して、あることないこと言いふらす。
眠り姫のことだってそうだ。
性格きついとか、プライド高いとか。そんなことはない。そんなはずはない、と思ってしまう。
「はぁ……」
でも俺ひとりが声を上げたところで、どうにもならない。噂はひとり歩きし、目には見えない力を振りかざす。
難儀だ。俺も彼も寝たいだけなのに。そう思ったら、やっぱ可哀想で仕方なかった。
放課後、どこにいるのか捜しに行こうかなぁ……。
自分から関わることはやめようと思ってたのに、いつしか心は完全に彼の方に傾いていた。
顔を合わせたり、話しかけたりはしない。ただ本当に少しだけ……元気かどうか確認して、帰ろう。
その日の放課後、雅月は鞄を教室に置いて廊下へ出た。
一応三年の教室を全部覗き、眠り姫がいないことを確認する。
やはり一年がうろうろしてると目立つようで、最後に覗いた教室のドア付近にいた先輩が声を掛けてきた。
「おっ? 誰に用?」
「あ。え〜っと……辰野先輩を捜してて」
もしここが辰野先輩のクラスじゃなかったら、何組かも知らないのに来たのか、と呆れられそうだ。しかし運がいいことに、先輩のクラスはここだった。
「辰野はだいぶ前に帰ったよ。あ、帰ったわけじゃないのか……多分別棟とか行ってるんじゃない? 静かだし」
「あ、ありがとうございます!」
親切なひとで良かった。お辞儀して、渡り廊下の先の別棟へ移動する。
特別授業のときしか使わない棟で、ほとんどが空き教室だ。そして、人がいない。
放課後は少し不気味だけど、確かに仮眠するにはおあつらえ向きである。
内心感心しながら散策していると、廊下の奥には誰かいるのが見えた。
知らない男子生徒。彼は扉に近付き、目の前の教室の中を覗いているようだ。
何してんだ……?
不思議に思っていると、彼はスマホを取り出し、扉の隙間に入れた。
────まさか。
猛烈に嫌な予感がして、歩みを進める。廊下のど真ん中へ行き、わざと足音を立てて近寄った。
彼は俺に気づくと、青い顔で走り去って行った。
「ちょっとちょっと……」
どう見ても、盗撮しようとしてたよな。
あんな高い位置にスマホを翳すこと、そうそうない。彼がいた扉の前へ寄って、ぐっと踵を浮かした。
扉についた窓ガラスから中を窺う。そこには、机の上で横たわる少年がいた。


