「赤城のことは大事だけど。あいつがお前の手を握ってるところを見たら頭に血が上って……思わず張り倒しそうになった」
「……」

朋空先輩は、赤城先輩を張り倒したことを完全に忘れているみたいだ。でも辛そうにしているから黙っておいた。

「この独占欲が、時々自分でも怖くなる」

独占欲……。

あまり耳で聞かない言葉だからか、すごく印象的だった。
依存に似てるんだろうけど、多分それよりもっと激しく、雁字搦めになった欲望なんだろう。

大好き過ぎて、誰にも触れられたくない。……程度はあるけど、恋人に抱くなら妥当な感情だ。

だって、俺も持っている。朋空先輩を守りたいと思う理由の一番底には、彼を盗られたくないという想いが隠れている。

だから自分を責め、一人で悩まないでほしい。

「先輩。俺も、先輩のこと独り占めにしたいよ」

本当の気持ちを伝えたら幻滅されると思う。
それでも正直に打ち明けた。彼の隣にこれからも居続けるなら、この感情を隠し通すのは不可能だ。いずれ自分が耐えられなくなって、席から下りてしまう。

「皆に注目されてる先輩が誇らしい。そんで、そんな先輩の隣にいるのが嬉しいと思う時がある。……見られてると落ち着かないし、先輩と思いきり笑い合えないのに。……矛盾してるこれは、独占欲なんかよりずっと汚い欲望だよ」

襟元を強く掴み、俯く。見張りもそうだけど、それより醜い心情を告白した。

嫌われるかもしれない。でも、伝えないといけないと思った。

最低だとか、何を言われても仕方ない。だけど朋空先輩は、泣きそうな顔で微笑むだけだった。

「何が問題なんだ? ……普通じゃんか」

頬に温かい手のひらが当たる。優しく撫でられて、また涙が零れた。
泣きすぎて、今すごい目が腫れてそう。そんなどうでもいいことを考え、彼の手に触れた。

「俺はお前の自慢の恋人でいたいんだ。だからすごく嬉しいよ。妬くのだって、大切に思われてるからだし」

先輩は少し照れくさそうに頬を掻いた。
気を悪くするどころか、少し誇らしげに見える。

「いや……そこは全然、ドン引きしていいところですよ」
「ないな。ドン引きされる自信はあるけど」

それもどうかと思うけど……安心したら、脱力してしまった。疲れもありフラつくと、お姫さま抱っこされてしまった。

「ちょちょちょ、先輩!」
「フラついてるぞ。……疲れただろ。少し抱えるから、大人しくしろ」
「大人しくできませんて! 大丈夫ですよ、ちょっと目眩がしただけだから!」

いとも簡単に抱えられたことがショックだし、恥ずかしい。何とか離れようとしたけど、先輩は器用にドアの鍵を開け、俺を外へ運び出した。

何してんだ。気でも触れたのか?
こんなところを誰かに見られたら、それこそ終わる。
姫にお姫さま抱っこされるなんて、明日から血祭り待ったナシだ。