赤城先輩は憐れみを込めた瞳で俺を見つめる。そして意を決したように手を叩いた。
「とにかく、君が狙われるようになったのは俺のせいだ。だから俺が責任をとる!!」
「いやいや、大丈夫ですよ。赤城先輩は悪くないです」
むしろ俺と朋空先輩を引き寄せてくれた、恋のキューピッドだ。感謝しかない。
笑顔で断ったものの、赤城先輩は食い下がらなかった。

「そう言ったって、君の研究室に辰野を入れるようお願いしちゃったし〜。それに君、今は廊下で見張り番してるんだって?」
「え。誰からそれを?」
「この前研究室の周りをウロウロしてる奴を捕まえて、問い質したんだよ。君がドアの前にいるから今までみたいに突撃できなくなったって嘆いてた。それなら俺が代わるから、無理しないで!」

勢いよく両手を握られる。
心配してくれるのは嬉しいし、不覚にもドキッとしてしまったけど。────赤城先輩の横に視線をスライドしたとき、心臓が止まりそうになった。

先輩の後ろに見えたのは人影。目を凝らして確認すると、無表情で佇む朋空先輩だった。

「わああっ!!」
「わっ、何? あ、辰野じゃん」

俺が驚き叫んだことで、赤城先輩も後ろにいる朋空先輩に気が付いた。俺から手を離し、困り顔で彼に振り向く。

「辰野、驚かないで聞いてほしいんだけど。今、入ちゃんが大変なんだ」
「知ってる。聞こえたからな」

ヒエッ。
聞かれたら困ることを、色々聞かれてしまった気がする。
びくびくしながら身を縮め、赤城先輩の影に隠れた。
朋空先輩の反応を見るのが怖くて顔を上げることができない。

「聞いてたか。じゃ、話は早い。入ちゃんを狙う変態が増えた今、研究室にお前ら二人でいるのは危険だ。場所を変えるか、一緒にいるのをやめて」
「離れて、関わるなって?」

赤城先輩の言葉を遮り、朋空先輩は忌々しそうに吐き捨てた。掛けていた眼鏡を外し、力強く握り締める。俺の聞き間違いでなければバキッという音が聞こえたので、壊れ……いや、壊したんだと思う。

「何で他の奴らの為にそんなことしないといけないんだ?」
「他の奴の為っていうか、入ちゃんの為だろ」
「問題ない。俺が守るんだから」
「って言うけどぉ、分かってんのか? お前は今まで入ちゃんに守られてたんだぞ。廊下で独り、小さいのに頑張っ痛ぇ!!」

したり顔で話す赤城先輩を押しのけ(……たというかほぼ平手打ち)、朋空先輩は俺の方にずんずんと歩いてきた。

やばい。これ絶対俺も殴られる。
咄嗟に目を瞑ったが、訪れたのは痛みではなく、腕を引っ張る衝撃だけだった。

「せ、先輩っ!?」
「来い」