「黒須さん、紗良さん、今日はお招きありがとうございます!」

 桜の下で、可愛らしい着物姿の琴葉が元気よく手を振っていた。

 「琴葉さん、来てくれたのね。嬉しい!」

 琴葉は綾子に薬を盛られてしまったが、幸いすぐに回復し、今はもうすっかり元気を取り戻していた。薬で操られていたのだから琴葉はなにも悪くないのに紗良に謝罪しに来てくれて、何度も話すうちにすっかり打ち解けたのだった。もう友人と呼んでもいいのではないだろうか。

 「紗良さん、お花見といえばお団子ですよね! あと桜餅もあるんです!」

 琴葉は、じゃーん、と言いながら和菓子が入った箱を開けた。

 箱にはピンクや薄緑の可愛いお団子と桜餅が詰まっていて、見ているだけで笑顔になってしまう。

 溌剌とした琴葉の姿に三枝は苦笑した。

 「琴葉、せっかくおめかししてるんだから、そんなに腕を振り回さず、もっと上品にしたらどうだ」

 「もう、兄さんはいつもひと言多いんだから!」

 琴葉はぷうっと頬を膨らませる。

 そんな仲のいい兄妹のやりとりを見て、紗良もクスッと笑った。

 「紗良さんって、普段はおしとやかな美人だけど、笑うと可愛らしい雰囲気ですよね」

 「そ、そうかしら」

 琴葉の言葉に、恥ずかしくなった紗良はもじもじ指を動かした。

 「ああ。紗良は美人だし、いつでも可愛い」

 「や、夜刀さんまで」

 真顔でそう言う夜刀に、いっそう紗良の頬が熱くなる。

 それから琴葉がたわいない話をあれこれと振ってくれ、紗良はそのたびに声をあげて笑った。学校に通った経験のない紗良だが、女学校に通って友人と話すというのはこんな感じなのかもしれない。

 「紗良さん、いい笑顔になりましたね」

 「はい。夜刀さんや、皆さんのおかげです!」

 立花は目を細めて笑顔の紗良を見守り、夜刀や三枝も微笑ましげな顔をしている。そこに万智と葵も加わり、さらに賑やかだ。

 両親を亡くしてから三年もの間、表情を出すことができなかった紗良の顔は、見違えるように生き生きと動くようになっていた。

 満開の美しい桜を見上げながら、楽しい時間を過ごす。

 万智や葵、そして招待客の立花に三枝、琴葉もまた桜を見上げて笑い合う。

 紗良は大好きな人たちと過ごしながら、胸の中に幸せな気持ちがひたひたと溜まるのを感じていた。