タンタン、シャーッと、紗良が操る織機が美しい音を奏でていた。

 踏み木を踏み込み夢中になって織っていると、織機と一体になったような気になる。

 紗良が妖魔に連れ去られ、夜刀に助けられてから、もう一週間が過ぎていた。

 紗良は夜刀のおかげで、奇跡的に怪我ひとつせず無事に帰ってこれた。それどころか、かつて紛失してしまったという戦神の刀の笄が見つかり、夜刀はもう記憶が消える心配もなくなったのだった。

 「紗良様、そろそろお客様がいらっしゃいますよ」

 葵のそんな声が聞こえて、足を止めた。すっかり時間を忘れていたようだ。

 「はい、今行きます!」

 黒須家の離れから出て、ぐるっと裏手の庭に回った紗良の目に飛び込んできたのは、満開の桜だった。

 今日は、夜刀と約束をしたお花見の日である。

 立派な太い幹をした桜が間隔をあけて十本ほど植えてあるのだが、すべての木が見頃を迎え、薄紅色の花を咲き誇っている。

 紗良はうっとりと桜を見上げた。

 「紗良」

 夜刀に呼びかけられ、紗良は振り返る。

 今日は妖魔討伐隊が休みで、夜刀もごく普通に黒のズボンと襟付きのシャツというごく普通の洋装をしていた。

 どんな服装でも夜刀のキリリとした容貌によく似合い、つい見惚れてしまう。何度見ても夜刀は素敵で、紗良は何度も惚れ直してしまうのだ。

 夜刀は銀色の瞳を細めて紗良に微笑むと、手を差し出した。

 紗良も心からの笑みを浮かべ、夜刀の手を握った。