大規模討伐から帰還し、もう一週間が経過していた。

 大規模討伐が犠牲者なく成功したのを祝い、今夜はパーティーが行われることになっていた。

 参加者は隊員だけでなく、家族や婚約者などの同伴を連れていく決まりらしい。

 夜刀の父親が死ぬ原因になった紗良が参加していいのだろうか。そんな疑問が紗良の心の中をぐるぐる回り、答えは出ないまま当日を迎えた。

 「紗良、準備はできたか?」

 「はい……」

 夜刀はいつもと違い、純白の軍服姿だった。装飾も多いので、おそらく式典用の衣装なのだろう。通常の軍服とはぐっと雰囲気が変わり、夜刀の凛々しさに磨きがかかって、さらに華やかな雰囲気まで醸し出していた。

 思わずうっとりと見惚れてしまう。

 「夜刀さん、素敵です」

 しかし、ときめいた自分に罪悪感を覚え、紗良は浮き立つ心を押し殺そうとするが、心臓がドキドキしてしまうのは止められなかった。

 「紗良もよく似合っている。……綺麗だ」

 夜刀は銀色の目を細め、紗良に微笑む。

 紗良に用意されたのは、淡い水色のドレスだった。

 艶のあるサテン生地に、細かい()(しゅう)が施されたレースが重ねてある。ふんわりとしたシフォンの袖と、スカート丈も足首までの長さがあり、普段ほとんど洋服を着ない紗良でも着られるような極力肌を出さないタイプだ。

 普段なら変わった縫製や材質に心が奪われてしまいそうなほど綺麗なドレスだったが、自分にはこんな素敵なドレスを着る資格などないと考えて憂鬱になる一方だ。

 夜刀に明かせない悩みのせいで、睡眠不足もずっと続いていた。

 「顔色が悪いな。体調が悪いのか?」

 「き、緊張しているだけです」

 紗良は夜刀に触れられる前に一歩引き、慌てて首を横に振る。

 万智や葵から何度も同じように言われていた。みんな、紗良を心配してくれる。こんなにも優しい人たちの大切な存在を紗良のせいで失わせてしまったのだ。今だけは、その優しさがかえってつらい。

 「そうか。無理はしないで大丈夫だからな」

 心の底からそう思っているであろう声に、紗良は俯くように頷く。

 紗良は沈んだ気持ちのまま、夜刀とともに祝勝パーティーの会場に移動する。気持ちだけでなく、ここしばらくの睡眠不足のせいか、足元がふらついた。

 「大丈夫か?」

 「は、はい。ヒールのついた靴に慣れなくて」

 そうごまかし、ギリギリのところでなんとか耐える。

 「ほら、俺の腕を掴んで」

 紗良は差し出された夜刀の腕をそっと握り、ギクシャクと歩き出した。