気丈に微笑んで見送ってくれる万智に挨拶をして出発し、さほど時間もかからず大規模討伐の後方待機所に到着した。
見覚えがある風景は、紗良が生まれ育った織井村のものである。結界の近くにある村なので、討伐の地に選ばれるのも納得だ。
紗良は見慣れた禍山を見上げた。鋭利な形の山頂は黒く、山裾は深い緑に覆われている。結界は、禍山との境目に一定間隔で要石を置き、結界を司る結神の加護を持つ一族の祈りによって保持されていた。
その要石のひとつの近くに天幕が張られ、後方待機所になっている。支援部隊や、医師などが待機し、紗良もここで待つことになった。
天幕と聞いてひとりが寝られる程度のテントがたくさん並んでいるのかと思っていたが、実際には大型のテントが複数張られており、テントの中でそのまま生活ができそうなほど広い。しかもそのうちのひとつ丸ごとが紗良の待機場所となった。
簡易的ながら寝台やテーブル、椅子なども用意され、しかも出入り口から寝台が丸見えにならないよう、天幕内にも仕切りがある。妖魔討伐隊には女性もいたが、割合としては男性隊員の方が多いのもあり、完全な個室に紗良は少しホッとしたのだった。
夜刀は定期的に前線から下がり、記憶を保つためにこの天幕で紗良と過ごすそうだ。
「紗良、ここで待っていてほしい」
夜刀は天幕内をチェックした後、真剣な顔で紗良に向き合った。
「は、はい……」
「支援部隊には立花先生や俺の部下たちもいる。なにかあれば紗良を守るよう頼んであるから」
不安だったが、危険なのは前線の夜刀たちだ。
「大丈夫です。私から行くって言ったんですから、覚悟の上です。ですから……私のことは気にしないでください。ご武運をお祈りしています」
「ああ、ありがとう。行ってくる」
そうして夜刀は出発していった。
紗良は心配で、つい禍山を見つめてしまう。
結界を超え禍山に入っていった夜刀たちの姿はもうとっくに見えなくなっていたが、ずっと外で禍山を見上げる紗良を心配したのか、立花が声をかけてくれた。
「紗良さん、大丈夫ですか? 寒いですし、天幕の中に入っていてくださいね」
今は三月の上旬で、寒さは随分緩んできたが、それでも屋外はまだ肌寒い。
「見ていても仕方がないですよね……でもつい気になって」
「心配になるのはわかります。でも、外にいるのならブランケットをどうぞ。それと、椅子を用意しますから、せめて座ってください」
「あのっ、俺、温かい飲み物を用意します!」
立花だけでなく、夜刀の部下である若手の隊員たちも紗良を気遣ってくれていた。
「ありがとうございます。私が外にいたら皆さんも休めないですよね……」
「気にしないでください! 黒須隊長の大切な人に風邪を引かせるわけにはいかないですから!」
「そうですよ。後方待機中だし、俺たちも今はすることないんで、もしよければ黒須隊長の話でもしませんか?」
「ええ、私でよければ、ぜひ」
「やった。黒須隊長の普段のお話、聞きたかったんです!」
隊員たちは目を輝かせる。
夜刀が部下たちから慕われていることがわかり、少し心が和んだのだった。
見覚えがある風景は、紗良が生まれ育った織井村のものである。結界の近くにある村なので、討伐の地に選ばれるのも納得だ。
紗良は見慣れた禍山を見上げた。鋭利な形の山頂は黒く、山裾は深い緑に覆われている。結界は、禍山との境目に一定間隔で要石を置き、結界を司る結神の加護を持つ一族の祈りによって保持されていた。
その要石のひとつの近くに天幕が張られ、後方待機所になっている。支援部隊や、医師などが待機し、紗良もここで待つことになった。
天幕と聞いてひとりが寝られる程度のテントがたくさん並んでいるのかと思っていたが、実際には大型のテントが複数張られており、テントの中でそのまま生活ができそうなほど広い。しかもそのうちのひとつ丸ごとが紗良の待機場所となった。
簡易的ながら寝台やテーブル、椅子なども用意され、しかも出入り口から寝台が丸見えにならないよう、天幕内にも仕切りがある。妖魔討伐隊には女性もいたが、割合としては男性隊員の方が多いのもあり、完全な個室に紗良は少しホッとしたのだった。
夜刀は定期的に前線から下がり、記憶を保つためにこの天幕で紗良と過ごすそうだ。
「紗良、ここで待っていてほしい」
夜刀は天幕内をチェックした後、真剣な顔で紗良に向き合った。
「は、はい……」
「支援部隊には立花先生や俺の部下たちもいる。なにかあれば紗良を守るよう頼んであるから」
不安だったが、危険なのは前線の夜刀たちだ。
「大丈夫です。私から行くって言ったんですから、覚悟の上です。ですから……私のことは気にしないでください。ご武運をお祈りしています」
「ああ、ありがとう。行ってくる」
そうして夜刀は出発していった。
紗良は心配で、つい禍山を見つめてしまう。
結界を超え禍山に入っていった夜刀たちの姿はもうとっくに見えなくなっていたが、ずっと外で禍山を見上げる紗良を心配したのか、立花が声をかけてくれた。
「紗良さん、大丈夫ですか? 寒いですし、天幕の中に入っていてくださいね」
今は三月の上旬で、寒さは随分緩んできたが、それでも屋外はまだ肌寒い。
「見ていても仕方がないですよね……でもつい気になって」
「心配になるのはわかります。でも、外にいるのならブランケットをどうぞ。それと、椅子を用意しますから、せめて座ってください」
「あのっ、俺、温かい飲み物を用意します!」
立花だけでなく、夜刀の部下である若手の隊員たちも紗良を気遣ってくれていた。
「ありがとうございます。私が外にいたら皆さんも休めないですよね……」
「気にしないでください! 黒須隊長の大切な人に風邪を引かせるわけにはいかないですから!」
「そうですよ。後方待機中だし、俺たちも今はすることないんで、もしよければ黒須隊長の話でもしませんか?」
「ええ、私でよければ、ぜひ」
「やった。黒須隊長の普段のお話、聞きたかったんです!」
隊員たちは目を輝かせる。
夜刀が部下たちから慕われていることがわかり、少し心が和んだのだった。
