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 中央妖魔討伐隊の新人隊員である臼井は大役に緊張していた。

 憧れの夜刀が、禍山での調査隊メンバーに抜擢(ばってき)してくれたのだ。

 「足を引っ張らないよう、頑張ります!」

 夜刀は昨日の頭痛のため不参加なのは残念だったが、せっかくの期待を裏切るわけにはいかない。

 「今日は調査だけだって」

 張りきりすぎて、ベテランの先輩隊員に笑われる始末だった。

 地震であちこちに崖崩れが起きたため、結界の内側で地形の確認や、妖魔の動きに異常がないか調べるというもので、調査は問題なく進んでいた。

 そんな時、臼井の視界の端になにやら動くものが見えた。

 「先輩! あっちに妖魔がいそうッス!」

 臼井は刀の柄に手をかける。

 「ちょっと見てきます!」

 「おい、結界から離れすぎるなよ」

 「はーい!」

 先輩隊員の忠告を臼井は聞き流す。

 調査だけとはいえなにか手柄を立てたくて少しずつ近づく。

 黒い狼に似た姿が見えた。神喰という妖魔の一種だ。小型で、しかも痩せているから、臼井でもひとりで倒せそうだ。一匹だけだし、よろよろした動き方から、弱っているのがわかる。臼井にも気づいていない。

 (こいつを倒せば、黒須隊長にもっと褒めてもらえるかも……)

 そう思い、妖魔が隙を見せるのを待っていた。

 妖魔は周囲を嗅ぎ回る仕草をして、地震で崩れた斜面の土を前脚でかいている。

 (ん? なにをしているんだ……?)

 妖魔が掘った場所から、なにか棒のようなものが転がり出た。

 妖魔は雌雄の区別もなく死ぬと泥になってしまうため、その生態は謎に包まれている。だから、こういう行動も報告すれば役立つかもしれない。そう考え息をひそめて観察していると、妖魔は掘り出した棒状のものに大口を開けて食らいついた。

 ゴリ、と噛み砕くような音が響く。途端に妖魔はブルッと震え、ブワッと膨れ上がった。そのまま、みるみるうちに大きくなっていく。

 目を疑った臼井は、声を出さないよう自分の口を手で押さえる。

 犬とそう変わらない大きさだった妖魔は、どんどん巨大化し、禍々しさを増していた。大きさはもう四メートルくらいあるだろうか。八つの赤い複眼がギラッと光っている。大型を超え、十年に一度出るかどうかという、超大型の妖魔に変貌していた。

 (ほ、報告しないと……)

 超大型の妖魔に気づかれないよう細心の注意を払い、そろそろと後ずさる。体の震えはしばらく止まらなかった。