◇◇
中央妖魔討伐隊の新人隊員である臼井は大役に緊張していた。
憧れの夜刀が、禍山での調査隊メンバーに抜擢してくれたのだ。
「足を引っ張らないよう、頑張ります!」
夜刀は昨日の頭痛のため不参加なのは残念だったが、せっかくの期待を裏切るわけにはいかない。
「今日は調査だけだって」
張りきりすぎて、ベテランの先輩隊員に笑われる始末だった。
地震であちこちに崖崩れが起きたため、結界の内側で地形の確認や、妖魔の動きに異常がないか調べるというもので、調査は問題なく進んでいた。
そんな時、臼井の視界の端になにやら動くものが見えた。
「先輩! あっちに妖魔がいそうッス!」
臼井は刀の柄に手をかける。
「ちょっと見てきます!」
「おい、結界から離れすぎるなよ」
「はーい!」
先輩隊員の忠告を臼井は聞き流す。
調査だけとはいえなにか手柄を立てたくて少しずつ近づく。
黒い狼に似た姿が見えた。神喰という妖魔の一種だ。小型で、しかも痩せているから、臼井でもひとりで倒せそうだ。一匹だけだし、よろよろした動き方から、弱っているのがわかる。臼井にも気づいていない。
(こいつを倒せば、黒須隊長にもっと褒めてもらえるかも……)
そう思い、妖魔が隙を見せるのを待っていた。
妖魔は周囲を嗅ぎ回る仕草をして、地震で崩れた斜面の土を前脚でかいている。
(ん? なにをしているんだ……?)
妖魔が掘った場所から、なにか棒のようなものが転がり出た。
妖魔は雌雄の区別もなく死ぬと泥になってしまうため、その生態は謎に包まれている。だから、こういう行動も報告すれば役立つかもしれない。そう考え息をひそめて観察していると、妖魔は掘り出した棒状のものに大口を開けて食らいついた。
ゴリ、と噛み砕くような音が響く。途端に妖魔はブルッと震え、ブワッと膨れ上がった。そのまま、みるみるうちに大きくなっていく。
目を疑った臼井は、声を出さないよう自分の口を手で押さえる。
犬とそう変わらない大きさだった妖魔は、どんどん巨大化し、禍々しさを増していた。大きさはもう四メートルくらいあるだろうか。八つの赤い複眼がギラッと光っている。大型を超え、十年に一度出るかどうかという、超大型の妖魔に変貌していた。
(ほ、報告しないと……)
超大型の妖魔に気づかれないよう細心の注意を払い、そろそろと後ずさる。体の震えはしばらく止まらなかった。
中央妖魔討伐隊の新人隊員である臼井は大役に緊張していた。
憧れの夜刀が、禍山での調査隊メンバーに抜擢してくれたのだ。
「足を引っ張らないよう、頑張ります!」
夜刀は昨日の頭痛のため不参加なのは残念だったが、せっかくの期待を裏切るわけにはいかない。
「今日は調査だけだって」
張りきりすぎて、ベテランの先輩隊員に笑われる始末だった。
地震であちこちに崖崩れが起きたため、結界の内側で地形の確認や、妖魔の動きに異常がないか調べるというもので、調査は問題なく進んでいた。
そんな時、臼井の視界の端になにやら動くものが見えた。
「先輩! あっちに妖魔がいそうッス!」
臼井は刀の柄に手をかける。
「ちょっと見てきます!」
「おい、結界から離れすぎるなよ」
「はーい!」
先輩隊員の忠告を臼井は聞き流す。
調査だけとはいえなにか手柄を立てたくて少しずつ近づく。
黒い狼に似た姿が見えた。神喰という妖魔の一種だ。小型で、しかも痩せているから、臼井でもひとりで倒せそうだ。一匹だけだし、よろよろした動き方から、弱っているのがわかる。臼井にも気づいていない。
(こいつを倒せば、黒須隊長にもっと褒めてもらえるかも……)
そう思い、妖魔が隙を見せるのを待っていた。
妖魔は周囲を嗅ぎ回る仕草をして、地震で崩れた斜面の土を前脚でかいている。
(ん? なにをしているんだ……?)
妖魔が掘った場所から、なにか棒のようなものが転がり出た。
妖魔は雌雄の区別もなく死ぬと泥になってしまうため、その生態は謎に包まれている。だから、こういう行動も報告すれば役立つかもしれない。そう考え息をひそめて観察していると、妖魔は掘り出した棒状のものに大口を開けて食らいついた。
ゴリ、と噛み砕くような音が響く。途端に妖魔はブルッと震え、ブワッと膨れ上がった。そのまま、みるみるうちに大きくなっていく。
目を疑った臼井は、声を出さないよう自分の口を手で押さえる。
犬とそう変わらない大きさだった妖魔は、どんどん巨大化し、禍々しさを増していた。大きさはもう四メートルくらいあるだろうか。八つの赤い複眼がギラッと光っている。大型を超え、十年に一度出るかどうかという、超大型の妖魔に変貌していた。
(ほ、報告しないと……)
超大型の妖魔に気づかれないよう細心の注意を払い、そろそろと後ずさる。体の震えはしばらく止まらなかった。
