次の日。報道によると、昨晩の地震で寝入りばなを起こされて驚いた人は多かったが、大きな被害はなかったようだ。倒れそうになった箪笥を受け止めて怪我をした人、驚いて飛び出し足首を捻挫した人が病院に担ぎ込まれた程度だったとか。

 早朝に妖魔討伐隊の本拠地に行った夜刀からも、結界に異常はなかったと連絡があってホッとする。

 忙しいのに、紗良を安心させるためにわざわざ知らせてくれたようだ。

 しかし、震源は禍山だったらしく、山中では崖崩れが起きているらしい。近日中に調査隊を出すため、夜刀はその調整で帰宅が遅くなるという。

 それを聞いて、万智は手を叩いた。

 「それじゃあ紗良ちゃん、今日は私とお出かけしましょうか! 一緒にお買い物して、観劇して、フルーツパーラーでパフェを食べましょう。ついでにこれから着れそうな春夏物の着物を新調するのはどうかしら。でも紗良ちゃんって、洋装も似合うと思うのよね。せっかくだし、ふりふりのワンピースも着てほしいわぁ」

 万智は、紗良が退屈しないように気を遣って提案してくれたのだろう。

 紗良も、万智ともっと親しくなりたいから一緒に出かけるのは嬉しいが、高い着物や洋服をポンポン買おうとされるのは困ってしまう。

 「も、申し訳ないのですが、私に似合うとは思えませんから」

 「あら、絶対似合うのに。じゃあ見るだけならいいでしょう?」

 見るだけ、と連呼する万智に、紗良はたじろぐ。思わず助けを求めるように葵に視線を送ったが、当の葵はニコッといい笑顔を浮かべている。

 「奥様、わたくしもお供します。実は、紗良様におすすめのワンピースを売っている店がございまして。とりあえずは試着だけでも!」

 「いいわねぇ! 案内してちょうだい」

 「あ、葵さんまで……」

 紗良はふたりから完全に押しきられてしまったのだった。