明け方、紗良は眠れずに時が過ぎるのを待っていた。

 「……さむ」

 布団の中でブルッと震える。布団は分厚いのだが、手足が冷えて早くに目が覚めたのだ。

 寝る前に湯たんぽを断ってしまったのを、今さらながら後悔する。

 (少し早いけど、もう起きちゃおうかしら)

 そう思った時だった。

 「ん……う、うう……」

 襖を隔てた隣の部屋から、(うめ)き声が聞こえた。ハア、ハア、と息苦しそうで、紗良は夜刀の具合が悪いのかとそっと襖を開けた。

 「……夜刀さん?」

 布団に乱れた様子はなく、夜刀は仰向けのまま横たわっている。しかし、寒いというのに額に汗が浮かんでおり、ひどくうなされているようだ。

 (嫌な夢でも見ているのかしら)

 起こすかためらったが、その間にも夜刀は呻き続けている。紗良は意を決して起こすことにした。

 「あの……どうしたんですか、夜刀さん」

 肩に手を置き軽く揺さぶりながら紗良が声をかけると、夜刀の眉間に刻まれた皺がふっと消える。ゆっくりとまぶたが開き、銀色の瞳が紗良を捉えた。

 「起こしてしまってごめんなさい。ひどくうなされていたから……」

 そこまで言ったところで、紗良は夜刀に引き寄せられて倒れ込む。そのままギュッと抱きしめられていた。

 「会いたかった……」

 紗良の耳元でそう囁く夜刀は、もしかしたら寝ぼけているのかもしれない。

 寝巻き越しに夜刀の温かさを感じ、紗良の鼓動が高鳴る。

 「や、夜刀さん……っ?」

 「……す、すまない」

 夜刀はすぐに紗良を離した。

 夜刀の耳が赤く染まっているせいで、紗良も恥ずかしくなってしまった。

 そこからは、時刻は少し早いものの、いつも通りの朝だった。

 夜刀は紗良の泣きぼくろに触れ、紗良に名前を問い、紗良が婚約者だと知ると幸せそうに微笑んだ。日記も確認し、すぐに状況を把握したようだった。

 「朝早くにすみません。うなされているのが聞こえてしまって……」

 「俺のせいで起こしてしまったのか。俺こそすまない」

 紗良は慌てて首を横に振った。

 「いえ、気にしないでください。冷え性なので、寒くて眠れずに起きていましたから。それより、嫌な夢でも見たんですか?」

 「……いや、覚えていない。それに目が覚めた瞬間に昨日の記憶と同じく夢の内容も消えてしまうから、どんな嫌な夢を見ていても関係ない」

 けれど、紗良の目にはかなり苦しそうに見えていた。

 こんな時くらい、夜刀の力になれたらいいのに。

 「……あの、なにか私にできることはありませんか?」

 「紗良は気にしないでほしい」

 「で、でも、尋常ではないうなされ方でしたし……心配で……」

 夜刀はそんな紗良を慰めるように手を握った。

 「冷たい……紗良こそ眠れなかったのだろう。まだ寝ていてくれ」

 「いえ、もう眠れそうにありませんし、大丈夫ですよ」

 そう言うと、夜刀は考え込むように顎に手を当てた。

 「もしかして、足も冷たいんじゃないのか」

 夜刀は紗良の素足に触れる。

 「氷みたいに冷えている。これでは寒い日にはつらいだろう」

 「や、夜刀さん……」

 冷たさを確かめるためとはいえ、足に触れられたのは恥ずかしい。

 「紗良……照れているのも可愛いな」

 そう言われ、紗良はますます恥ずかしくなって俯いた。