黒須家に来て、わずか数日で紗良の生活は一変した。
選びきれないほどの着物や小物類が用意され、できたての温かい食事をしている間に部屋の掃除や布団干しまで済まされているのだ。
変わったのは物質的な話だけではない。
夜刀の記憶は毎日リセットされてしまうのだが、毎朝紗良を見つけて幸せそうに微笑み、愛を囁いてくれる。日中は妖魔討伐隊の本拠地に行くため不在になるが、帰ってからは紗良のそばから離れようとしない。
万智は紗良に優しく、葵や他の使用人も親切で、織井家にいた時のようにつらいことは一度も起きなかった。
満たされている。紗良はそう感じていた。
「紗良様、少し表情が柔らかくなった気がしますね」
葵にそう言われ紗良は自分の顔に触れてみるも、いつも通りで表情筋が動いている感じはない。
「自分ではわからないんですけど……そうだと嬉しいです」
動かない表情も、欠けてしまった記憶も、変わっていない。けれど、黒須家で歓迎され穏やかな生活を送っているせいか、紗良の中で止まっていた時間が少しずつ動き始めたような気がするのだった。
医師の立花からも、とにかく心を癒すことを第一にと言われていた。
(こんな生活が続けば、いつかは笑えるようになるのかもしれない)
笑えるようになったら、夜刀に一番に見てもらいたい。そして毎朝、笑顔で朝の挨拶をして、夜刀の婚約者の紗良だと名乗るのだ。
そんな日が早く来てほしいと、紗良はそう願っていた。
選びきれないほどの着物や小物類が用意され、できたての温かい食事をしている間に部屋の掃除や布団干しまで済まされているのだ。
変わったのは物質的な話だけではない。
夜刀の記憶は毎日リセットされてしまうのだが、毎朝紗良を見つけて幸せそうに微笑み、愛を囁いてくれる。日中は妖魔討伐隊の本拠地に行くため不在になるが、帰ってからは紗良のそばから離れようとしない。
万智は紗良に優しく、葵や他の使用人も親切で、織井家にいた時のようにつらいことは一度も起きなかった。
満たされている。紗良はそう感じていた。
「紗良様、少し表情が柔らかくなった気がしますね」
葵にそう言われ紗良は自分の顔に触れてみるも、いつも通りで表情筋が動いている感じはない。
「自分ではわからないんですけど……そうだと嬉しいです」
動かない表情も、欠けてしまった記憶も、変わっていない。けれど、黒須家で歓迎され穏やかな生活を送っているせいか、紗良の中で止まっていた時間が少しずつ動き始めたような気がするのだった。
医師の立花からも、とにかく心を癒すことを第一にと言われていた。
(こんな生活が続けば、いつかは笑えるようになるのかもしれない)
笑えるようになったら、夜刀に一番に見てもらいたい。そして毎朝、笑顔で朝の挨拶をして、夜刀の婚約者の紗良だと名乗るのだ。
そんな日が早く来てほしいと、紗良はそう願っていた。
