氷の花嫁~笑顔を失った能面の少女が幸せになるまで~

 ◇◇

 綾子に櫛を奪われてから二週間。

 櫛を取り返すべく、紗良は黙々と機織りをする日々を送っていた。

 休息や睡眠は最低限しか取っていないため、疲労が全身に纏わりつき、ズッシリと重い気がする。それでも織れた量はまだ半分にも満たない。

 (間に合う……? ううん、絶対に間に合わせないと)

 次に夜刀に会う時には、自分のことを正直に話すと決めたのだ。破談になるにしても、けじめとして櫛は返さなければならない。

 (それまでに取り戻さなきゃ)

 紗良はふらつく体を叱咤(しった)し、守布を織り続けた。

 しかし、家事も紗良に課せられた仕事だった。

 「ちょっと、紗良」

 掃除をしていた紗良は綾子に呼び止められた。

 「はい、なんでしょう……」

 「明日には返さなきゃいけない本を忘れてきちゃったの。でもあたし、これから習い事だし、代わりに繁華街の『(ちょう)(にわ)』ってカフェーまで取りに行って」

 了承したくとも、守布を織らなければ間に合わない。

 そうためらった紗良に綾子が微笑む。

 「やだ、あんなのさすがに冗談だってば。ほら、櫛も返すから」

 綾子は紗良の手に櫛を握らせた。

 夜刀からもらった時のまま傷もついておらず、ホッと息を吐いた。

 「わかりました。行ってきます」

 「忘れ物を取りに行くだけだからって、繁華街に行くのにそんなボロい着物はやめてよ。こないだあたしがあげた着物にしなさい。ほら、もうすぐバスの時間だから急いで着替えて!」

 「わ、わかりましたから」

 ぐいぐいと背中を押して急かしてくる綾子に、紗良は目を白黒させて頷いた。