氷の花嫁~笑顔を失った能面の少女が幸せになるまで~

 白と黒の鯨幕で覆われた葬儀場に、焼香の煙が薄くたなびいていた。

 葬儀場の一番奥、喪服姿の少女が両親の()(はい)を抱えてポツネンと座っている。

 (うつむ)いているその顔には悲嘆の表情どころか、涙すら浮かんでいない。

 まるで、能面のように無表情のまま。

 「(おり)()紗良さん、このたびはお悔やみ申し上げます」

 「……恐れ入ります」

 参列者が訪れるたびに頭を下げる様子は、ぜんまい仕掛けの人形のようだった。

 「妖魔に襲われて、ご遺体はひどい有様だったそうよ」

 「妖魔討伐隊の隊長さんも(おお)怪我(けが)を負ったそうだが……」

 「十五歳の娘さんだけが生き残ったんですってね。本家で引き取るのかしら」

 葬儀場のあちこちから、そんな(ささや)きが聞こえてくる。

 夜遅く、結界を破った妖魔が村外れにある紗良の家を襲ったのだそうだ。

 両親は亡くなり、妖魔討伐隊に救助されて紗良だけが生き残った、らしい。

 というのも、紗良は一部始終目撃していたはずだが、ポンと時間が飛んでしまったかのようになにも覚えていなかったのだ。

 今も両親の葬儀だというのに現実感がなく、読経の声もどこか遠く聞こえる。葬儀を遠くから眺めているような気がしていた。

 もう戻ることができない生家で、父が()(げん)ですり潰していた生薬の匂いや、母が織っていた布の白さは鮮明に思い出せるというのに、肝心の両親の顔や声、どんな話をしていたのか。そんな思い出だけが頭からこぼれ落ちてしまったかのようだった。

 (お父さん、お母さん……)

 無理に思い出そうとしたせいか、こめかみにズキッと鋭い痛みが走る。

 紗良は両親の位牌を抱く手に力を込めて痛みをこらえた。

 悲しくても痛くても、一滴の涙も落ちず、眉を寄せることも、口角を下げることすらできない。

 紗良は、感情表現がいっさいできなくなっていた。

 (私、どうしちゃったんだろう……)

 「親の葬式に涙ひとつ見せないとは、なんて薄情な子だ」

 「あんな子を引き取るのは嫌よ」

 「能面みたいで、薄気味悪い……」

 ヒソヒソと囁かれる言葉が、ざくりざくりと心に突き刺さる。

 紗良は深く俯き、ただ耐えることしかできなかった。