「佐久間ーちょっと良いか?」

「なんですか?」

「今日の放課後から練習試合に向けての練習に入るから、きちんとサボらずに来いよー」

「はーい」

3時間目の休み時間、バスケ部の顧問兼コーチの江坂先生が来た。

(もう、こんな季節か…)

文化祭に向けて文化部が準備をする中、俺達バスケ部は毎年文化祭当日にある試合の為の練習が始まる。






お昼休み、教室に来た翔太と中庭に出る。

「凪先輩〜!」

「翔太君」

中庭のベンチに腰掛け、お弁当を太腿の上で食べる。

「あのさ…」

「ん?どうしたんですか?」

「今日の放課後から部活の練習時間が長くなるんだよね」

「…それって、いつまでですか?」

「少なくとも、文化祭までは」

「…それ、まだ長くなる可能性もあるってことですか…?」

「あぁ」

翔太はお祖母さんお手製弁当の中に入っていた卵焼きがボロッと落とし、ベンチをバウンドし地面へと着地した。

「勿論、お昼はちゃんと会えるから!ね?」

凪は慌てて補足する。

「でも…淋しいです。放課後も一緒に帰りたい」

「…お願い、ほんの少しだけ我慢して欲しいな?」

「もー!ほんの少しだけ、ですからね!…あと、毎日メールも送ってください。それと、名前で呼んで欲しいです」

「名前?」

「翔太って呼んで欲しいんです。僕も凪って呼ぶので!」

翔太が凪を期待に満ちた眼差しで見つめている。

「翔太、我慢してくれたらいっぱい遊びに行けるから、な?我慢出来るか?」

「分かった…我慢する…」

ぎゅっと抱きつく翔太の頭を凪が撫でる。

「…放課後の練習見に行っても良い?」

翔太がボソッと呟く。

「良いよ」



放課後

体育館に着くと、各々ウォーミングアップをする。

しばらくすると、翔太の姿が小窓から見える。

(もう来たんだ…)

だが、すぐにコーチに見つかり翔太は追い返される。

その姿を見て凪は少し淋しくなる。

「ストップ!おい、凪!どこ見てんだー!」

「すみませーん!」

先輩に喝を入れられ、凪は練習に集中した。





「お疲れ様でしたー!」

練習が終わり、制服に着替えると皆が帰って行く。

凪はスマホに来ているメールを確認する。

「…凪ーいい加減帰れよー」

「はーい」

鍵を閉めに来たコーチに注意され、帰路に着く。

スマホに表示された通知は0件

翔太は宣言通り、我慢をしてくれていた。



放課後翔太と一緒に帰れなくなってから数日後のお昼休み

「…淋しい」

あれから翔太はいつにも増して甘えん坊になった。

「俺も淋しいよ」

今では中庭でお弁当を食べることも止め、教室の窓辺で椅子を並べて食べている。

「凪、もうすぐ文化祭だね」

「そうだな、あと1週間だ」

「あと少しでこの生活が終わる!ずっと凪と一緒に居られる〜!」

「試合に勝てばまだ続くんだけどな」

「…もう、頑張ってるのは分かるけど、もう我慢出来ない!淋しい!…それに暇で暇で仕方ないから、ミサンガ作ったんだ、はい」

翔太が渡して来た赤とオレンジと白色の刺繍糸で作られたミサンガを受け取った。

「ありがとう、大切にするよ」

「…大切にするんじゃなくて、早く切って帰って来てよ」

「分かった。ちゃんと頑張ってくるから、試合会場ちゃんと来てくれよな」

「もちろんだよ」

翔太がくれたミサンガを右足首に結ぶと気が引き締まる思いになった。




試合当日

観客席には翔太が居た。

翔太が手を振る。

凪も手を振り返して、試合が始まった。




試合が終わり、無事凪達のチームが勝った。

「凪、おめでとう」

「ありがとう…でも、また一緒に居られなくなっちゃった」

「そこは悔しいけど!でも、凪が頑張ってることだから…悔いが残らないようにして欲しい」

「ありがとう、翔太…俺、精一杯頑張るから」




そして、準決勝に進んだ凪のチームは準優勝の結果に終わった。

試合が終わって数日後の昼

凪がデートの待ち合わせ場所に行くと既に翔太が来ていた。

「お待たせ…!待った?」

「待ってないよ♪楽しみで眠れなかっただけだから」

「そっか…それなら良いんだけど」

「じゃー!行こう!凪!」

翔太が凪の手を取り、引っ張るように歩き出した。