「なにひとりで笑ってるんですか?」
 いつの間にか俺たちの昼食場所になった非常階段。俺はいつものたまご蒸しパンで、すみは大盛りの焼きそばパンを食べていた。
「なにって、俺たちが付き合った日のことを思い出してたんだよ」
 この場所で想いを伝え合ってから、今日で丁度一年が過ぎた。天使すぎる俺には相変わらず過激なファンが付いているけど、すみがいつも守ってくれるし、俺もすみを誰にも奪われないように見張っている。
「一年記念日は、ちゃんとしたところでお祝いしたかったです」
 すみは甘えるように、俺の肩に頭を乗せた。
「空手の試合が近いんだから、今はそっちに集中して」
「試合が終わったら改めてお祝いしましょうね」
「じゃあ、なにかプレゼントでも送り合う? すみはなにが欲しい?」
「それはもちろん……」
「わっ」
 すみは隙を突くのが上手で、俺はいつも簡単に押し倒されてしまう。
「みう先輩が欲しいです」
「……いつもあげてるだろ」
「もっと」
 すみが甘いキスをしてきた。恋がなんなのか分からなかった頃が今では懐かしい。俺の日常にはすみがいて、これからも数えきれない思い出を一緒に重ねていくんだろう。
「おい、首の後ろは触るなよ」
「弱いですもんね。でも今は別の弱いところも知ってますよ?」
「ひゃいっ」
 すみの指先が不意に弱い部分に触れた。階段に反響する声が、二人だけの秘密を確かめる合図のように思える。
「はは、可愛い。これからもみう先輩は俺のものですからね」
「バカ。それを言うなら、これからもすみは俺のものだよ」