「どうしよう、絶対に傷つけた……」
次の日。俺は朝から自分の机に顔を埋めていた。今まで数えきれないほど告白を断ってきたし、相手からの好意だってうまく流してきたのに、昨日のすみの顔が頭から離れない。
「天使がそんなに落ち込んでるなんて珍しいじゃん」
前の席の森谷が興味津々で覗き込んできた。
「森谷は恋人と順調?」
「うん、今日も放課後会うよ」
「いいなぁ……」
「天使だって、城築すみと会えるだろ?」
「え?」
「あの後輩のことで悩んでるんじゃないの?」
親友だけあって、俺の心の内は手に取るように見抜かれている。
「俺さ、すみといるとこの辺がざわざわするんだよ」
そう言って、自分の左胸を擦った。すみはいつも俺のことを大切に扱ってくれるから、俺もすみを大切にしたいって思ってたのに、すみにつらそうな顔をさせてしまった。
「ざわざわするのは、城築のことが好きだからじゃないの?」
「え、す、好き? 俺がすみのことを?」
「なんとも思ってないやつにそこまで悩まないだろ」
「でも俺、まだすみのことよく知らないし……」
「俺だって恋人のことは一目惚れで好きになったよ。好きになってから相手のことを知っていってもいいじゃん」
「俺、すみのこと好きなのかな?」
「じゃあ、城築が他の人と付き合ってもいいの?」
「ダ、ダメ!」
思わず声を大きく張った。
「それは……絶対にダメ。すみと付き合うのは俺がいい」
きっとこれから、すみのカッコよさに気づく人が現れる。あの視線が、あの言葉が、俺以外の人に向けられるなんて想像もしたくない。
「じゃあ、もう答えは出てるじゃん」
「俺、すみのところに行ってくる……!」
教室を飛び出して、すみのクラスまで急ぐ。1年生の階に着くと、なぜか廊下に女子たちが群がっていた。背伸びして覗き込むと……。
「城築くん、雰囲気変わったね!」
「すっごく似合ってる!」
そこには、前髪をばっさり切ったすみがいた。女子のひとりがすみの腕に軽く手を絡め、スマホを構える。
「ねえ、写真撮ってインスタにアップしていい?」
触られているすみを見て、胸がギュッと締めつけられる。俺は、その輪に踏み込んで声をかけた。
「すみ……!」
「え、みう先輩?」
「ちょっと来い!」
すみを廊下から連れ出し、人気がない非常階段に向かった。静寂を破るように始業のチャイムが鳴り響く。
「みう先輩、授業――」
「なんで前髪を切ったんだよ?」
「なんでって……」
「っ、すみの顔を知ってるのは俺だけでいいんだよ! お前は……モテなくていい」
その言葉を聞いて、すみはきょとんと目を丸くしていた。自分でも子供っぽいことを言ってるって自覚している。だけど、すみの写真を撮っていいのは俺だけだし、すみに触っていいのも俺だけがいい。
「前髪を切ったのは、少しでも大人っぽくなりたかったからです。どう頑張ってもみう先輩より年上にはなれないけど、せめて意識してもらえるようにって……」
「なんだよ、それ。そんなことしなくても、とっくにすみのこと意識してるよ」
伝えた瞬間、自分でもわかるくらい顔が熱くなった。真っ赤になった俺を見て、すみは「本当ですか?」と驚いた顔をしていた。
「うん、本当だよ」
「俺、みう先輩のことを独り占めしたいです。でもそんなこと言えないです」
「ふっ、言ってるじゃんか」
「どうしたら俺は、みう先輩のものになれますか?」
どうしよう、すみが可愛すぎる。すみに触りたくて、もっと近づきたくて、俺は自分からすみにキスをした。
「もう俺はすみのものだよ。だから、すみも俺以外に触らせないで」
すると、なにかのスイッチが入ったみたいにまたすみに押し倒された。優しいすみも好きだけど、部活の時みたいに獲物を狙うような目をするすみも、たまらなく好きだ。
「みう先輩、俺と付き合ってください!」
「はい、喜んで――」



