「じゃあ、哀賭くん、またね。会わないと思うけど」
母親の葬式が終了した後、私は会場の前で哀賭くんと別れた。
ニコニコで笑っているけど、あの人の瞳はまた、歪んだ。たぶん、女子にちやほやされるタイプだ、あの人。
愛想を振りまいて、わざと変な仕草をするやつらもいる。実際に、私をいじめてくる女子もそういう奴だ。
そういう者のことを、人々は「ぶりっ子」と呼んでいる。
私は気にしない。気にすると、大きなことになる。それは面倒くさい。
「やられたら、やり返す。当たり前の事。優しさなんてただの嘘。」
母親から教えられた。言うとおりに実行しても、別に困ることはなかった。嫌われるだけ。
他人から嫌われても、自分で自分を嫌わなければいい。
このことに関しては、私は母親の言うことは合っていると思う。
だが、私は母親から暴力を受けていた。何か気に入らないことがあるとすぐ、私を殴る。
キャバ嬢は大体、そうなのだろう。まともなことができず、夜の世界に飛び込む。
愚かな男たちに見つからないように、ベットのぬいぐるみを抱いて隠れた。
母親が初めて買ってくれた、うさぎのぬいぐるみ。本当に大事にしていた。
今も部屋にある。糸もほつれて、ボロボロな人形だが。
布団の中で、息をひそめて、泣くのを我慢する。夜が毎日辛かった。
母親の部屋から聞こえる、男の笑い声。気持ち悪い音。慣れたくないのに慣れてしまった。
バレたら、蹴られるのかな。殺されるのかな。死にたくない、という気持ちで我慢した。
抵抗しても、彼女は異様に力が強かった。それが毎日恐ろしくて。
自分もそうなってしまうのが怖かった。助けて、と叫んでも誰も聞いてくれなかった。
友達は分かってくれたが、当時の先生に相談したところ、私は先生にいじめられた。
そして、仲のいい友達までいじめられるようになった。とても申し訳なかった。
涙も血も滲んだが、決して「痛い」とは言えなかった。
自分や人の痛みや辛さも感じなくなってしまったからだ。そして、中学校では裏切られた。
仲の良かった2、3人の友達はそれぞれ別のクラスに行き、私は男子にいじめられた。
といっても、今のような悪質で悪戯ないじめではない。その男たちの家に連れられたのだ。
必死に全力で抵抗した。そいつらは弱かったから、逃げることができた。私は確信した。
私は、強い。小さなころからの経験のせいだ。メンタルだって強くなってしまった。
弱いものを嫌い、愛や優しさを恐れ、今の私になってしまった。
だからこそ分かる「自分」がいる。考えたこともあった。もし、私が恵まれていたら。
でも、そうだったら強くはなかったはずだ。
だって、今の私は暴力も、暴言も、いじめも、性虐待も経験している。
その所為で、驚くほど悲惨な人生だが、私は今の自分を強いと思っている。でも、愛は未だに分からない。
私のすぐそばにあった愛が、汚れた愛だったからだ。だから、私は真実の愛を知らない。
哀賭くんも、同じようなことがあったのかもしれない。あの瞳が、言っている。
私に語りかけてくるのだ。助けて、と何度も何度も。だが、その訳は分からない。
私の人生を表すとしたら薔薇のようだ。綺麗なラベンダーとは程遠い。