若い男の人がいた。20代前半だろうか。この人もあの女に騙されたのか。
この人があの女にラベンダーの花束を置いた人だと思われる。
だが、ずいぶん、容姿が整っている。アイドルになれそうな顔だ。
「こんにちは」
その人から声をかけられた。少し低めの声だった。
「何?お兄さんも、ママに騙されたの?」
私の第一印象は、少し不気味で不良そうな女の子、だろう。
「騙された?どういうこと?君は安奈の家族?」
あ、キャバクラで働いてたってこと、知らないのか。
もしかして、私の父親か…
急に沈黙が流れる。あの人がキャバ嬢になったのは16歳から。
「お兄さん、誰?ママに何の関係があるの?」
私の最大限、低い声で言った。不気味な声には自信がある。
だが、その人は全く怖がる様子もなく、近づいてきた。よほど度胸があるのだろう。
「う~ん。君のお母さんかな?学生のときの彼氏だよ。中学生の頃の」
「何歳から?何年付き合ってたの?」
「そんなの知りたい?」
男の人は何が面白いのか、一人で笑っている。
「えっとね…。13歳からかな?一年ぐらい付き合ってたよ。安奈の方から『好きな人ができた。別れよう』って言われて。へぇ~。そういうことか~。みたいな?アハハ。説明が下手でごめんね~」
13歳から、一年。14歳で別れたのか。初恋みたいな感じだな。で、そのあと、15歳で私を妊娠したということは…
その話が合っていれば、『好きな人』というのが私の父親の可能性がある。
「ねぇ、お兄さん。気になったんだけど、その、『好きな人』って誰だか知ってる?」
「知らないなぁ。そうそう。呼び名の事なんだけどさ。俺も『君』って呼ぶの嫌だからさ」
話を変えられた。少し怪しいけど、この人はなんだか、嘘をついていないような気がした。
なぜだかわからない。でも、私は信じてしまった。不思議な気分だった。
軽やかで、なめらかで、なんだかふわっと浮いたような気持ち。騙されたような感覚ではなかった。
馬鹿だ、私。自分の母親を思い出して。いろんな人を騙し、騙され、結局命を絶った母親を。
あんな愚かな人間にはなりたくないでしょ。
初めての気持ち、ということは確かだった。でも、私はまだ知らない。
あの人が、私の復讐の鍵を握っていること。そして、私があの人の罠に引っかかること。
悲しい。どうして、私はこうなんだろう。生意気で、騙されやすくて、恐ろしくて、美しい。
私のことを『美しい』と言う人はたくさんいる。どうも、私はこの日本では都合のいい顔をしているそうだ。
そして、私は孤独だ。学校でも、家庭環境のせいでハブられるし、私は学校が大嫌いだ。
「いじめアンケート」でも、私は堂々と『学校は大嫌い』と書き込んだし、教師の授業だって真面目に聞いていない。
小さい頃から私は思っていた。分からなかったことがあった。
この世界は、美しいものが好きでしょう?なら、なぜ、私を愛してくれないの?
私は、一回だけ、母親に聞いてみた。怒られることは承知していた。その上で聞いたのだ。
そしたら、母親は答えた。珍しく、落ち着いた表情だった。
「あなたは恐ろしいから。どこか儚くて、どこか寂しくて、狂っているの。私に似てしまったわね」
私は、恐ろしいの?どうして、私はこうなってしまったの?どこを直せば私は愛してもらえるの?
真実の愛を信じちゃダメなの?歪んでいる世界観が、もっと歪んだ。
「母親はもっと狂っているくせに。自分の子供にまで洗脳しやがって‼」
死体に向かって、大声で叫んだ。
この人があの女にラベンダーの花束を置いた人だと思われる。
だが、ずいぶん、容姿が整っている。アイドルになれそうな顔だ。
「こんにちは」
その人から声をかけられた。少し低めの声だった。
「何?お兄さんも、ママに騙されたの?」
私の第一印象は、少し不気味で不良そうな女の子、だろう。
「騙された?どういうこと?君は安奈の家族?」
あ、キャバクラで働いてたってこと、知らないのか。
もしかして、私の父親か…
急に沈黙が流れる。あの人がキャバ嬢になったのは16歳から。
「お兄さん、誰?ママに何の関係があるの?」
私の最大限、低い声で言った。不気味な声には自信がある。
だが、その人は全く怖がる様子もなく、近づいてきた。よほど度胸があるのだろう。
「う~ん。君のお母さんかな?学生のときの彼氏だよ。中学生の頃の」
「何歳から?何年付き合ってたの?」
「そんなの知りたい?」
男の人は何が面白いのか、一人で笑っている。
「えっとね…。13歳からかな?一年ぐらい付き合ってたよ。安奈の方から『好きな人ができた。別れよう』って言われて。へぇ~。そういうことか~。みたいな?アハハ。説明が下手でごめんね~」
13歳から、一年。14歳で別れたのか。初恋みたいな感じだな。で、そのあと、15歳で私を妊娠したということは…
その話が合っていれば、『好きな人』というのが私の父親の可能性がある。
「ねぇ、お兄さん。気になったんだけど、その、『好きな人』って誰だか知ってる?」
「知らないなぁ。そうそう。呼び名の事なんだけどさ。俺も『君』って呼ぶの嫌だからさ」
話を変えられた。少し怪しいけど、この人はなんだか、嘘をついていないような気がした。
なぜだかわからない。でも、私は信じてしまった。不思議な気分だった。
軽やかで、なめらかで、なんだかふわっと浮いたような気持ち。騙されたような感覚ではなかった。
馬鹿だ、私。自分の母親を思い出して。いろんな人を騙し、騙され、結局命を絶った母親を。
あんな愚かな人間にはなりたくないでしょ。
初めての気持ち、ということは確かだった。でも、私はまだ知らない。
あの人が、私の復讐の鍵を握っていること。そして、私があの人の罠に引っかかること。
悲しい。どうして、私はこうなんだろう。生意気で、騙されやすくて、恐ろしくて、美しい。
私のことを『美しい』と言う人はたくさんいる。どうも、私はこの日本では都合のいい顔をしているそうだ。
そして、私は孤独だ。学校でも、家庭環境のせいでハブられるし、私は学校が大嫌いだ。
「いじめアンケート」でも、私は堂々と『学校は大嫌い』と書き込んだし、教師の授業だって真面目に聞いていない。
小さい頃から私は思っていた。分からなかったことがあった。
この世界は、美しいものが好きでしょう?なら、なぜ、私を愛してくれないの?
私は、一回だけ、母親に聞いてみた。怒られることは承知していた。その上で聞いたのだ。
そしたら、母親は答えた。珍しく、落ち着いた表情だった。
「あなたは恐ろしいから。どこか儚くて、どこか寂しくて、狂っているの。私に似てしまったわね」
私は、恐ろしいの?どうして、私はこうなってしまったの?どこを直せば私は愛してもらえるの?
真実の愛を信じちゃダメなの?歪んでいる世界観が、もっと歪んだ。
「母親はもっと狂っているくせに。自分の子供にまで洗脳しやがって‼」
死体に向かって、大声で叫んだ。



