「『薬草』に『滋養強草』、『リフレッシュ草』、『黄金草』……これ、本当に今さっき見つけてきたんですか? 私が教えた場所にこんなにありました?」

「いえ、教えてもらった場所に行こうとしたんですけど、他に良さげな場所があったのでそっちに行きました」

「良さげな場所って、そんな括りにしていいような気がしないんですけど」

 冒険者ギルド職員の女性はカウンターに盛られている数々の薬草を見て、そんな言葉を漏らしていた。

 しばらく薬草を見たまま動かなくなったので、俺は少しだけ不安になって口を開いた。

「えっと、買い取ってもらえるんですよね?」

「も、もちろんです! すみません、冒険者ギルドに登録した初日の採取依頼でここまで持ってくる人いなかったので、驚いてしまいました!」

 ギルド職員の女性は頭を何度か下げてから、採取してきた薬草を種類ごとに分けて買い取り額を計算していた。

 そして、しばらく待っていると、ギルド職員の女性がカウンター越しに効果を積んで渡してきた。

「依頼の達成報酬と、他の薬草を合わせた十万ウンになります」

「十万ウン? えっと、外貨取引担当のおっさんのスキルで……なるほど、だいたい日本の円と同じくらいか」

 俺がおっさんスキルを使用すると、頭の中でこの世界の硬貨と日本のお金の価値を比較することができた。

 なるほどな、薬草採取で十万……いや、高すぎないか?

「えっと、貰い過ぎてないですか?」

「そんなことないですよ! 『黄金草』が一本五千ウンで、それが十本もあるんですから。それに、『滋養強草』と『リフレッシュ草』も『黄金草』ほどじゃないですが、高値で取引される薬草の一つなので」

「そ、そうなんですか」

昼過ぎから夕方くらいまで薬草採取をして十万貰えるのか。

毎日朝から深夜まで働いて、色々と引かれていた日本にいた頃と比べると、楽すぎる仕事だな。

 スキル『おっさん』があれば、金に困るような事態は避けられそうだ。

 俺はそこまで考えてから、少し後ろにいたノエルに振り向いて手招きをする。

「ノエル。案内してもらったし、報酬を分け合おうぜ。それに、入会費も渡さないと」

「……やだ。受け取りたくない」

「え?」

 しかし、ノエルは思いもしなかった言葉と共に首を小さく横に振っていた。

 俺はノエルの言葉の意味が分からず、しばらく固まってしまった。

「受け取りたくない? いやいや、どういうことだよ。訳が分からないぞ」

 わざわざ依頼を受け終えて疲れている中、俺と一緒に薬草採取の依頼を受けたのも、すぐにお金を返して欲しかったからじゃないのか?

 俺が首を傾げると、ノエルが眉を下げてちらっと俺を見上げた。

「おっさん、ここでうちにお金返したら、どこか行っちゃうかもしれないだろ? そうなったら、おっさんが戦うところ見れないし」
「いやいや、さすがにまだ他の街に行ったりはしないって」

 何を気にしているのかと思ったら、そんなことを気にしていたのか。

 ていうか、ここ数時間でえらく懐かれてないか? いや、懐かれているというか、やけに俺の戦いを買われている感じか。

 しかし、俺がそう言ってもノエルは中々お金を受け取ろうとしなかった。それから、少しのやり取りがあってから、ノエルは良案を思い付いたように声を漏らして続けた。

「じゃあさ、おっさん今度強い魔物倒しにいくんだろ? そのときにうちも連れてってくれよ! そうしてくれれば、そのあとに前貸した入会費を受け取るから」

「そう言うことなら、別にいいけど……そんなについてきたいのか?」

 俺がそう言うと、ノエルは何度も頷いて真剣な眼差しを向けてきた。

 まぁ、受け取ってくれるというのなら無理に急ぐ必要はないか。

 あんまり子供にお金を借りたままにはしたくはないのだが、本人がこう言っている以上仕方がない。

 それから、俺はカウンターの上に置かれている硬貨をちらっと見る。

「とりあえず、少し早いけど夕飯にするか。金もあるし、色々と世話になったから今日くらいは奢らせてくれ」

「おっさん、いいのか!」

 すると、ノエルは分かりやすく元気になって目をキラキラとさせていた。

 俺はそんなノエルを見て、思わず笑みを零してしまった。

「ああ。俺はこの街のことを知らないから、店はノエルに任せたい」

「それなら良い店があるぞ! さっそく行こうぜ、おっさん!」

 俺が一旦カウンターの上にある硬貨を受け取ると、ノエルは俺の手を引いてこの街にある飲食店へと案内してくれた。

 ……ようやく、異世界飯という物が食えるのか。

 俺は憧れていた色んな異世界飯を想像して、心躍らせるのだった。