「悪いな。剣まで貸してもらって」

「いいって! さすがに、丸腰で依頼を受けるわけにもいかないだろ?」

 ノエルは手を横に振って、気にするなと言って笑っていた。

 冒険者ギルドで受ける依頼を決めてから、さっそく依頼に向かおうと思ったのだが、今度は武器を何も持っていないことに気がついた。

 受けた依頼は薬草の採取だったので、最悪なくても行けるだろうと思っていたのだが、ノエルがそれなら昔父親が使っていた剣があるから貸してやると言ってくれた。

 子供に入会費を借りるだけでなく、武器まで借りるなんてことはできない。

 そう考えて断ろうとしたのだが、ノエルに押される形で結局剣を借りることになった。

 正直かなり助かるではあるが、ここまでして貰っていいのだろうかと思ってしまう。

……まぁ、今はお金もないわけだし、ノエルの優しさに感謝してこの剣を使わせてもらうとしよう。

「おっさんって、薬草の採取とかしたことあるのか? 思った以上に薬草の採取って面倒だぞ?」

「それは問題ない。まぁ、任せてくれって」

 俺はノエルの言葉に得意げな笑みを返してから、辺りを見渡した。

 そろそろギルド職員の女性の話に聞いた群生地が近いかもしれない。俺はそう考えて、さっそくスキル『おっさん』を発動することにした。

 薬草の群生地を見つけて、それが薬草かどうか判断できるおっさんは……やっぱり、探検家とかかな。

『おっさんスキル発動:おっさん探検家』

 そんな声が脳内に直接聞こえてきた次の瞬間には、体が勝手に動き出した。

「おっさん? ギルド職員のお姉さんが言っていたのは、そっちじゃないぜ?」

「分かっている。こっちの方が薬草の良い群生地があるんだ」

「なんでそんなこと分かるんだ? ちょっと、待ってくれよおっさん」

 俺が迷うことなくどんどん進んでいくと、ノエルが慌てたように俺の後ろをついてきた。

それから、ノエルは思い出したように『あれ? おっさんって方向音痴のはずでは?』と呟いていた。

 俺は魔物の気配と、茂みにある危険などを避けながら、最短距離で薬草の群生地に最短距離で向かって行く。

「もうすぐだ。この茂みの先だな」

「なぁ、本当にこんなところに薬草があるのかよ? 薬草採取の依頼でこっちの方まで来る冒険者いないぜ」

 不満そうなノエルの声を聞きながら茂みを抜けると、そこには辺り一面に色んな種類の薬草が広がっていた。

「は? え、なんだこの薬草の群生地! こんなのあるなんて知らなかったぞ!」

「定番の『薬草』に、『滋養強草』、『リフレッシュ草』、『黄金草』にその他諸々。うん。これだけあれば、入会費を返しても余裕でおつりが来るな」

 俺が薬草の群生地を見てそう言うと、ノエルが驚いたように俺の方にバッと振り返った。

「おっさん、薬草の知識もあるのか? そんなパッと見ただけで簡単に分かるなんて凄すぎないか⁉」

 ノエルに羨望の眼差しを向けられて、俺は少しだけ得意げに笑う。

「まぁな。おっさんの手にかかればこんなもんだ」

 俺は軽くふざけたように言ったつもりだったのだが、ノエルは『おっさんすげーな!』と言って本気にしてしまっていた。

 いや、俺はただスキルを使っただけで、凄いのは俺じゃなくておっさん探検家の方なんだけどな。

 まぁ、いいか。

 俺は訂正するタイミングを失ったので、ノエルに勘違いをさせておくことにした。

 それに、これだけ凄い、凄いと言われれば悪い気はしないし。

「それじゃあ、色々採取していくか」

 俺はノエルにそう言って、ノエルと共に薬草の採取をすることにしたのだった。