おっさん、転生特典でスキル『おっさん』をもらう。 ~世界中のおっさん(達人)のスキル使い放題チートのせいで、異世界人に頼られまくる。

「はー! うまかったぁ!」

「……食べ飲み過ぎてしまったな」

 それから、俺たちはたらふくハイリザードのステーキを食べて、俺は葡萄酒を一本開けてしまっていた。

 一通り片づけを済ませた俺は、ぐっと軽く背伸びを一つする。

「それじゃあ、俺はそろそろ帰るとするかな」

「え、おっさん、あんなに酒飲んだのに帰れるのかよ? 泊まっていけばいいじゃんか」

 俺が帰り支度を始めると、ノエルは目をぱちぱちっとして俺を見上げてそう言った。

「え? いいのか?」

「いいもなにも部屋余ってるし、問題ないだろ……ていうか、おっさんならここに住んでもいいぞ」

「いやいや、そこまでして貰う訳にはいかんだろ」

 さすがに、昨日会ったばかりの子供の家に住まわせてもらうというのは、引け目を感じる。

 おっさんなのに、子供に家賃を払ってもらってるみたいで抵抗があるのだ。

 俺がそう言うと、ノエルは拗ねたよう俺から顔を逸らす。

「いいじゃんか。ずっと家で一人だと話し相手がいなくて暇なんだよ」

「あー、なるほど。そういうことか」

 俺が泊まっている安宿なんかは人の気配がするが、少し街から外れた場所にあるノエルの家は人の気配がない。

 そして、現代日本のようにスマホを見ることもなければ、テレビをみたり、ラジオも聞いたりすることもできない。

 ノエルは暇だと言っているが、表情から察するに夜一人だと寂しいのだろう。

 ……さすがに、寂しがってる子供を放置して宿に帰るわけにもいかないか。

 俺がそんなふうに頭を悩ませていると、ノエルが俺の顔を覗き込んできた。

「ここに住んだら、キッチン使い放題だぞ。それに、安宿みたいにうるさい隣客もいないし、依頼に行くときとかも一緒にいけて楽だろ?」

 ノエルはここぞとばかりにアピールポイントを口にして、なんとか俺を引き留めようとしてくる。

 俺はそんな必死なノエルを見て、小さく頷いた。

「そうだな。そこまで良い点があるのなら、ここに住まわせてもらうかな」

 俺がそう言うと、ノエルは少年のような笑みを浮かべた。

「やった! おっさんは飯当番な!」

「……それが目的か」

 ノエルは『これで、毎日うまい飯が食べれる!』とはしゃいでいた。

 それの喜びが純粋に飯当番を見つけたからなのか、寂しさが紛れるからなのかは分からない。

 まぁ、アニメもない世界で過ごす一人時間が暇なのは、俺も同じだしちょうどいいだろう。

 そんなこんながあって、俺はノエルの家に住まわせてもらうことになったのだった。

 


 そして、翌日。ノエルと共に朝ご飯を食べた後、俺は異世界ならではの事情に頭を悩ませていた。

「……浴槽にゆっくり入りたいな」

「ゆっくり浸かる?」

 リビングで俺がそんな独り言を呟くと、ノエルが首を傾げた。

 この世界には湯船につかって疲れを取るという考えがあまりないらしく、木製の大きな桶のようなものにお湯を張って、その中で体を洗うらしい。

 だから、長時間湯につかることもない。

 そういえば、海外とかも浴槽にゆっくり浸かったりしないんだっけ。

 中世ヨーロッパの街並みの街なら、風呂事情もそっちに似るのは当然か。

 それでも、日本人としては浴槽に使って疲れを取りたいというもの。おっさんになれば、余計にその考えが強くなる。

「大きな風呂、作ってみるか」

「え?」

 これから長く住まわせてもらうのなら、あった方がいいに決まっている。

 俺はそう考えて、ノエルの家に日本風の家を作ることにしたのだった。