俺はそこら辺にある棒を使って、動かなくなった魔物をつんつんと突いてみた。

 気を失っているのか死んでいるのか分からないが、背骨が曲がっちゃいけない方向に曲がっている。

「どう考えても普通じゃないよな。さっきの正拳突きは」

 俺は頬を掻いてさっき魔物の鼻を殴ったときのことを思い出す。

 空手なんかやったことがないのに、有段者みたいな正拳突きを繰り出していた。それも、体が勝手に動いたのだ。

「どう考えても、スキルのせいだよな。でも、俺のスキルって『おっさん』っていうスキルだけだぞ」

 何をどうしたらおっさんが魔物を素手で屠れるのか。いくら考えても正解にたどり着けなかった俺は、ステータスを表示させてスキルを再度確認してみることにした。

「やっぱり、新しくスキルを覚えたとかじゃないみたいだな」

 もしかしたら、魔物と対峙することでスキルを習得したのかと思ったが、そういう訳ではないらしい。

 そうなると、考えられることは一つ。

「スキル『おっさん』の力で魔物を倒したってことか? そういえば、魔物を倒したときに何か脳に流れてきた気がする」

 俺はそこまで考えて、魔物を屠る前に流れてきた音声のようなものを思い出した。

『おっさんスキル発動:おっさん空手家』

「おっさん空手家。確か、クマを殴ったおっさんのことを思い出したんだよな。それで、そのおっさんみたいに魔物を倒せないかと考えたら、魔物を屠れたんだよな。ということは……」

 俺はこれまでのことを頭で整理して、一つの仮説を立てた。

「もしかして、スキル『おっさん』って、おっさんが持ってるスキルを使えるスキルじゃないか?」

 それなら、さっき俺が魔物を倒せたことも納得がいく。

 そして、その仮説を確かめるために、一番手っ取り早い方法があることに気づいた。

 俺はステータス画面に手のひらを向けて、独り言を呟く。

「スキルとかを鑑定できる、『おっさん鑑定士』でスキル『おっさん』を鑑定」

『おっさんスキル発動:おっさん鑑定士』
『スキル鑑定結果:『おっさん』……世の中のおっさんが持ってるスキルを全て使えるスキル』

 俺は頭に直接流れてくる声を聞いて、口元を緩める。

「やっぱりそうか。まさか、『おっさん』がこんなチートスキルだったなんてな」

 初めはハズレスキルかと思ったが、全くそんなことはなかったみたいだ。それどころか、超当たりスキルだ。

 最近、日本ではおっさんは老害だとか色々言われているが、世の中のほとんどのモノづくりや、システムを動かしているのはおっさんだと言われている。

 それこそ、可愛いものを作っているのもおっさんだし、萌えアニメを作っているのもおっさんだ。
有名アスリートのおっさんもいるし、狩人をしているおっさんもいる。

 力でねじ伏せるのではなく、若者の力を技術でいなし、熟練の技を使うことができる。それが、この『おっさん』というスキルなのだろう。

「なんで俺にこんなスキルが……って、俺がおっさんだからか」

 最近の異世界物だと、生前にしたかったことや生前の知識なんかをスキル化している作品が多い。

 しかし、生前の俺には特技ということもなければ、やりたいことなんて酒を飲んでアニメを観るくらいしかなかった。

 そんな中年の男にスキルを与えようとした結果、『おっさん』なんてスキルができてしまったのだろう。

 いや、本当の所は分からないけど、なんとなくそんな気がするんだよ。

「何はともあれ、これで野垂れ死ぬってことはなさそうだな」

 俺はそっと胸を撫でおろしてから、辺りを見渡す。

「とりあえず、街に向かうか。えっと、『おっさん探検家』のスキルでも使うか」

『おっさんスキル発動:おっさん探検家』

 脳内にそんな声が流れた次の瞬間には、街がある方向がすぐに分かるようになった。

 俺はさっそく使いこなしつつあるスキル『おっさん』の便利さに、思わず口元を緩めてしまうのだった。