「お、おっさん、魔法も使えるのかよ」

 俺はそんなノエルの言葉を聞きながら、凄まじいエネルギーが手のひらに集まっていくのを感じていた。すると、突然そのエネルギーの流れがピタッと一定の所で止まった。

 そして次の瞬間、俺の手のひらから風をまとった斬撃のようなものが唸りを上げながら発射された。

 ハイリザードの頭よりも大きな斬撃は、斬撃のような魔法は地面をえぐりながら、ハイリザードに迫っていく。

 ゴガガガッ!!
 
「ガア、ア」

 ハイリザードは突然過ぎる一撃に一瞬動くことができずいた。しかし、自分の命が危ないことに気づいて慌てて俺の斬撃のような魔法から逃げようとした。

 しかし、逃げ出したのが遅すぎたせいで、ハイリザードの尻尾の部分に俺の魔法が直撃し、尻尾を切断した。

「ガアアア!!」

 斬られた尻尾はぶりんぶりんっと動き回って、本体を探しているようだった。

「ああっ、外してしまったか」

 ハイリザードは痛がって暴れているが、まだまだ動ける様子だった。俺はあれだけの魔法が使えながら、仕留めきれなかったことに対して眉間にしわを入れる。

 ……少し距離が遠すぎたかもな。

 すると、後ろの方から歓声が上がってから、言葉が聞こえてきた。

「いやいや、当たってるでしょ」

「博さん、一撃でハイリザードの尻尾を切り落としてんだけど」

「何あの魔法? 魔法なの?」

 いや、確かにD級のパーティが挑む相手に、G級冒険者が一撃入れられたのは凄いのかもしれない。

 それにしても、さっきの魔法の威力は何なんだ。おっさん魔法使いってあんなに強いのか?
 ……うん、老魔法使いが強いのは結構常識かもしれない。

「ガアアア!!」

「え? 嘘だろ、逃げる気か?」

 俺がそんなことを考えていると、ハイリザードが慌てたようにガサガサッと俺から背を向けて走り出した。

 まさか、G級相手のおっさんに勝てないと思ったのか?

 まずい、このままじゃ依頼失敗になってしまう。

 何とか遠距離から魔物を攻撃できないかと思った瞬間、前にナイフを投げて魔物を倒したことを思い出した。

 もしかしたら、あれに風魔法を乗せたら逃げる魔物の頭を打ち抜けるかもしれない。俺はそう考えて、スキル『おっさん』を二つ発動させる。

『おっさんスキル発動:おっさん魔法使い×おっさん軍人』

 そんな声を聞こえた次の瞬間、俺はサバイバルナイフをハイリザードに向けて構えていた。そして、俺の右手にはさっき魔法を使った時と同じようん魔力のようなものと風が集まってきていた。

 それから、狙いが定まった瞬間に体が勝手に動いて、風魔法をまとわせたナイフをハイリザードにぶん投げていた。

「はっ!」

 シュンッーースコンッッ!!

「ガアア! アッ、アッ」

 そして、俺の投げたナイフはハイリザードの後頭部に見事直撃した。

ハイリザードはナイフが直撃した瞬間悲鳴のような声を上げてから、ふらふらっとして走った勢いのまま勢いよく倒れ込んでしまった。

 俺がガッツポーズをしている中、周りがしんっと静かになってしまっていたことに気がついた。

 後ろを振り向いてみると、エイラを含む憲兵たちがぽかんとしてしまっていた。

「凄すぎんだろ。ナイフを投げてハイリザードを倒すなんて、博さん強過ぎないか?」

「ハイリザードって、パーティを組んで倒す魔物よね?」

「博さんG級って言ってたよね? 聞き間違いじゃないよね⁉」

 エイラを含む三人の憲兵たちはハイリザードが倒されたのを見て、遅れて歓声を上げていた。

 俺はそんなふうに俺がハイリザードを倒したことを喜んでくれる憲兵たちを見て、釣られるように笑ってしまった。

「おっさん!!」

 すると、リザードの相手をしていたノエルが俺のもとに走ってきた。辺りを見てみると、数体いたリザードたちが血を流しながら倒れていた。

 ノエルの奴、俺がハイリザードを倒すまでにリザードたちをみんな倒したのか。

 俺がノエルの強さに感心していると、ノエルはぶんぶんっと両方の拳を振りながら興奮した様子で俺を見上げてきた。

「おっさん、魔法も使えたのかよ! 魔法も剣も使えるなんて最強じゃんかよ!!」

 俺は無邪気に喜ぶノエルに羨望の眼差しを向けられて、少し照れ臭くなってしまうのだった。