それから、最小限の魔物との戦闘を終えて、俺たちはハイリザードがいる岩山に来ていた。

「あれがハイリザードか」

 俺は離れた岩の影からハイリザードの姿を覗き見る。

 岩山のてっぺんには鱗をまとった翼のないワイバーンような魔物がいた。岩山の岩が食い込むほど鋭い爪を持っており、長い尻尾をいたずらに振りまわして、近くにある岩を砕いていた。

 そして、ハイリザードの周りには、ハイリザードを二回りくらい小さくした魔物が数体いた。

「ノエル。あの周りにいる奴らはなんだ?」

「あれは普通のリザードだな。ハイリザードと比べると弱い。おっさんはあいつらをどう倒したい?」

 ノエルは俺と同じように岩の影からハイリザードたちを見てから、ちらっと俺の方を見た。

 俺は少し考えてから、頷いて口を開く。

「せっかく強い相手なら、俺のスキルがどこまで通用するのか試してみたい。俺がハイリザードを、ノエルが周りのリザードを倒すのはどうだ?」

 俺がそう言うと、エイラが『え⁉』と驚くような声を漏らした。エイラを見ると、エイラは慌てた様子で俺を止めようとする。

「ハイリザードを一人で倒す気ですか? さ、さすがに、無謀では? ねぇ?」

 エイラが他の二人の憲兵に話を振ると、二人は顔を見合わせてから首を横に振った。

「いいや、博さんならできるんじゃないか?」

「うん。道中の魔物も瞬殺だったしね。ハイリザードも瞬殺する気がするんじゃない?」

 二人はそう言って小さく笑っていた。

 どうやら、道中にいた魔物たちを圧倒したことで、憲兵たちに結構信頼されているみたいだ。

 ちらっとエイラを見ると、エイラは何も言い返すことができなくなってしまっていた。

 そんな三人の反応を見てからノエルを見ると、ノエルはニカッと笑っていた。

「うちはおっさんがそれでいいならいいぜ。きつくなったら、すぐに呼んでくれよ」

「それじゃあ、決まりだな。エイラたちはここを動かないでくれ。周囲を確認したが、あいつら以外に魔物はいないみたいだからな」

「ひ、博さんっ」

 俺は少し心配そうなエイラに片手を振ってから、岩影から姿を見せた。そして、俺の隣からノエルが勢いよくリザードたちに向かって突っ込んでいった。

「ガア?」

 ノエルの接近に気づいたリザードたちは間の抜けた声を漏らしてから、ノエルが剣を引き抜いたのを見て戦闘態勢に入った。

「おらっ!」

「ギャア!」

 そして、ノエルは剣を振り回しながら、的確にリザードたちを倒していった。

 ノエルがリザードたちを倒していくれているうちに、俺は奥でゆったりと構えているハイリザードを見る。

 それから、どんなおっさんの力を使おうかと考える。

「そういえば、まだ魔法を使ってなかったな。せっかく異世界に来たのなら、魔法を使ってみたい」

 俺はそんな独り言を漏らしてから、スキル『おっさん』を発動させる。魔法を使えるおっさんって言うと、そのままだけどこんな感じだろう。

『おっさんスキル発動:おっさん魔法使い』

 そんな声が脳内に直接聞こえてきて、俺は手のひらをハイリザードに向ける。ハイリザードは俺が魔法を使うと思っていないのか、俺の魔法を食らっても大したことないと思っているのか、構えもしなかった。

 今回の依頼では、ハイリザードの鱗と爪を持ち帰らないといけない。だから、極力死体は綺麗な状態で魔物を倒さなければならないのだ。

「風系統の魔法で首を落としてみるか……え?」

 ブワッ!

 俺がそう考えた瞬間、凄い勢いで手のひらに風が集まってきた。感じたことのない何かが勢いよく体を巡り、周囲の風を集める動力源になる。

 もしかして、これが魔力ってやつなのか?