「おっさん! 治ったから依頼を受けに行こうぜ!」

「いや、翌日に回復するわけないだろ」

 異世界で町中華を食べた翌日、俺が泊まっている安宿にノエルがやってきた。町中華を食べた後、ノエルに安いホテルを案内してもらったので、ノエルに俺が泊まっている場所は知られている。

 それは分かっていたが、わざわざ部屋まで迎えに来るとは思わなかったな。

 俺はそんなことを考えながら、ノエルが怪我をしていた手足を確認する。すると、案の定、傷が完治している訳ではなかった。

「その傷とか平気なのか? それが治ってからでいいだろ」

「その傷って……これのことか? おっさん、冒険者ならこんなの日常茶飯事だぜ。別に、骨とかに異常があるわけじゃねーし、問題ないって」

「そうなのか? まぁ、子供の頃ってそんな感じだったっけ?」

 大人になって怪我している子供を見ると心配にはなるが、当時は俺も色んな所をすりむいても構わず遊んでいたような気がする。

 それに、冒険者って魔物と戦う訳だし、怪我をしない方が珍しいのかもしれないな。

「ノエルがそう言うなら、行ってみるか」

「おう! ほら、早く行こうぜ!」

「ちょっと待ってくれって、軽く準備だけさせてくれ」

 俺はノエルに急かされながら、簡単に準備を済ませてノエルと共に冒険者ギルドに向かうことになったのだった。



「それで、どの魔物の肉が美味いんだ?」

「えー、依頼を受ける基準がそこなのかよ」

 冒険者ギルドに入った俺たちは、依頼が貼られている掲示板の前で依頼を選んでいた。

 おっさん翻訳家の力のおかげで依頼内容は分かるが、実際に討伐対象肉を食べたことがないので、ノエルに色々と聞きながら依頼を決めていた。

 しかし、ノエルは俺の依頼の決め方が面白くないのか不満そうに眉を下げている。

「じゃあ、美味い酒が体中から出る魔物とかでもいいぞ」

「そんな魔物いるわけないだろ。美味い肉……それでいて、おっさんの力が分かるような依頼か」

「いや、別に俺の力が分かるかどうかとかはどうでもいいって」

 俺はノエルにそう言ったが、ノエルは眉をひそめて真剣な表情で掲示板を見つめていた。

 俺はそんなノエルを見ながら腰から下げている剣の柄に触れる。

 結局、昨日ノエルから借りたノエルの父親の剣を今日も借りてしまっている。

昨日得た報酬で剣を買おうと思ったのだが、返そうとしてもノエルが受け取ってくれなかった。

 これの剣も入会費と同じタイミングで返して欲しいとのことだ。

 どうやら、入会費にプラスして剣を貸していれば、俺がどこかに行くことはないと思っているらしい。

 ……俺がこのまま剣を盗んで街から逃げたらどうする気なんだろうな。

「よっし。じゃあ、この依頼にしようぜ」

 ノエルは大きく頷いてから、一枚の依頼書を掲示板から剥がして俺に見せる。

 そこには『ハイリザードの討伐』と書かれていた。

「ハイリザードって、大きなトカゲかなんかだろ? 美味いのか?」

「トカゲなんてもんじゃないって、小ぶりなワイバーンみたいな魔物だから」

「いやいや、ワイバーンみたいな魔物なんて俺に倒せるはずがないだろ」

 俺はノエルの言葉に慌てて手を横に振った。

 ノエルは俺のことを買ってくれているみたいだが、俺はまだこの世界に転移してきた二日目のおっさんだ。

 さすがに、そんなバケモノを相手にするのは早すぎる。

 しかし、俺がそう言ってもノエルは何でもないことのように笑っていた。

「大丈夫だって。小ぶりだって言ってるじゃんか。普通のD級冒険者がパーティ組んで倒すくらいの魔物だからさ」

「俺G級なんだが?」

「安心しろって。C級のうちがいれば問題ないから」

「え、ノエルってC級なのか?」

 俺は思いもしなかった言葉に目を見開く。

 一人で依頼を受けているくらいだから、それなりに強いとは思っていたが俺よりも冒険者のランクが四つも上だったとは。

 じゃあ、俺がノエルを助けたときは、本当に偶然疲れて果てたところを襲われていたみたいだな。

「そうだぜ。凄いだろ!」

「あ、ああ。本当にすごいな」

 ノエルは俺に褒められたことが嬉しかったのか、胸を張って得意げな顔をしていた。

 ……なんか急に頼もしく思えてきたな。

 ノエルがいてくれるのなら、多少強い相手でも問題ないかもしれない。それに、こんな機会がないと格上の魔物相手に戦うことなんかできないしな。

 ノエルの言う通り、スキル『おっさん』がどのくらい通用するのか試してみたくなってきた。

 それに何より、ワイバーンに近い魔物の肉がどれほど美味いのか気にもなるしな。

 俺はそう考えて、ノエルと共にハイリザードの討伐依頼を受けることにしたのだった。