唐突だが、学生の秋といえば文化祭である。
学校としては来年度の入学志願者獲得のための宣伝みたいな部分もあって、金土と開催する計二日間のうち、土曜日は丸一日一般公開をして結構大々的にやる。
各クラスと部活ごとの出し物や模擬店なんかもあって結構盛り上がるが、去年の俺はクラスの出し物の裏方をしただけで終わった。帰宅部な上にボッチだったからね。
学校のイベントなんて陽キャのものだ。陰キャの代表ともいえる俺は今年もボッチ確定だろうと。そう思ってたんだけど。
「文化祭、楽しみだな~」
食卓に並んだアジフライを口に運んでいると翔がそんなことをいうから、つい、さすが陽キャ代表、と思ってしまった。
ちなみにこのアジフライは翔がスーパーで買ってきた今日の手土産だ。前にフライが食べたいけど魚は高いからなぁと俺がぼやいていたからだと思う。
衣はサクサクと食感がよく、厚みのある身はふわふわでめちゃくちゃおいしい。とてもお高そうである。
初めてうちに来て以来、翔は食材やら惣菜やらを手土産にして、夕飯を食べに来るようになった。手土産はいろいろだが、この間なんて、ついに白米を10キロ持ってきた。
さすがに小遣いで買った食料をもらうのは申し訳ないと断ったのだが、「俺が自分で稼いだお金だから大丈夫」と、押し切られてしまった。
翔が言うには小学生のころから投資で稼いでたとか何とか…。別世界の話過ぎて耳の右から左へ通り過ぎていったからよく覚えていない。
夕飯を作るのを手伝ってくれるときもあり、並んで台所に立っていると後から孝太郎の盛大な舌打ちが聞こえる。もちろんスルーだ。
孝太郎は相変わらず翔を嫌っているし、うちに来ればひたすら悪態をついているが、なんだかんだこうして食卓を共にしている。
多分、翔が持ってくる食料に負けたのだろう。この前はずうずうしくも牛肉を持って来いと要求していた。本当に持ってきそうだからヤメロ。
「三星くんも一緒に回らない?」
「絶対に嫌。学校では絶対絡まないで」
「頑なだなぁ」
不機嫌を全開にふんっと孝太郎は鼻を鳴らすが、翔はそれを見て楽し気に目じりを下げた。
前に孝太郎の態度は気分が悪くならないのかと聞いたが、翔的には「おもしろいし、威嚇してる猫みたいでかわいい」らしい。ちょっと、いや、かなり意味不明だ。
俺と孝太郎が一緒に住んでいることがばれてから、孝太郎への”恋心”については話していない。でも、こうしてうちに足しげく通ってくるのは孝太郎との距離を縮めたいからなんだろうと思っている。
現に、夕飯ができるのを待つ間なんかに、二人並んで本を読んでいたり、(ほとんど翔が一方的にだけど)話をしていることもある。共通の趣味というのはやっぱり仲を深めるにはいい素材だ。
孝太郎も翔のことをもっと知れば、『好きになる』とまではいかないにしても、『悪いやつじゃない 』くらいには考えを改めると思うし。
そうなれば、翔と孝太郎が並んでいる姿を見て、俺の胃がもやもやとストレスを感じることもなくなるだろう。
「文化祭って私もいけたりするのかしら?」
そうそう、翔がうちに来るようになってから、なぜかのんちゃんもたまに一緒に来るようになった。締め切り前とか仕事が立て込んでいるときは無理だといって来ないけど。
どうやら我が家に来ると、創作意欲が掻き立てられるらしい。お役に立ててなによりです。
「土曜日なら自由に入れますよ」
翔の答えに顔を輝かせたのんちゃんは、あれとあれは何日までにやって、あれはまだ締め切りは先だから、なんて文化祭へ参加するために脳内でスケジュール調整をし始めた。
のんちゃんは”漫画家”だということは聞いているが、仕事内容を詳しく聞いたことがないから、実際どんなものを書いているのか知らないし、売れているのかどうかも知らない。孝太郎が言うにはこんなボロアパートに住むほどではないらしいけど。じゃーなんで引っ越さないのか、とは嫌な予感がするから聞いていない。
「僕は行けそうにないから残念だな…。孝太郎たちのクラスは何するの?」
先述した通り、文化祭はかなり大々的にやるから相当数の人が来る。孝太郎の父親、優一朗さんは人混みに出ると体調を崩しやすいからと去年も来ていない。そうなると自動的に俺の父親も来ない。まぁ親に来てほしいなんていう年齢でもないので全く問題ないし、俺の父親と孝太郎の父親が一緒にいることに突っ込まれても困るし。
「俺たちのクラスはダーツバーですね」
「ダーツバー? おしゃれねぇ~」
そう、俺たちのクラスはダーツをメインとして飲み物を提供する「ダーツバー」をやることになった。もちろん、飲み物はジュースだ。でも、いろいろこだわって、ノンアルコールカクテルみたいなやつも提供する。
俺と孝太郎は提供する飲み物を作ったり、投げられたダーツを回収したりといわゆる裏方だが、当然、翔は接客係。というか、翔にバーテンダーの格好をさせたいがためにこの企画になったといっても過言ではない。女子の圧がすごかった。
さらには、ダーツで高得点をとると好きなバーテンダーと一緒に写真が撮れるとかいう特典付きだ。かなりの集客が見込まれることは間違いないだろう。めちゃくちゃ女性客に偏る気がするけど…。
「いろいろあるのよね、どこ行くか迷っちゃいそう」
「そうですね、見どころはいろいろあるし…よければ案内しますよ、ねぇ明希」
「えっお前、そんな時間ないだろ?!」
「そうだよ、諏訪野はそんな暇ないでしょ。のんちゃんは俺が案内するから」
「えーちゃんと交代制だし大丈夫だよ」
どう考えても、時間通りに交代できると思えない。それに、翔は部活の方もある。
運動部は屋外で屋台を出すのが恒例らしく、バスケ部はフライドポテトを売るんだとか。
いろいろ案は出たが、最終的にバスケ部のメンバーで作れそうなのがポテトくらいしかないという結論に至ったんだと。
それでも、なにか個性を出したい、とぼやいていたから、フレーバーとかで工夫すればいいんじゃね? と俺が何気なくいった案が採用されたらしい。
俺は翔と違って自由時間もちゃんとあるだろうから、顔を出すつもりだ。
「部活の方も大丈夫。ちゃんと自由時間は確保したし。明希と回るの楽しみにしてるんだから」
「いやいや、なんで貴重な自由時間を俺に使うんだよ」
「は?」
聞いたことのないような翔の低い声に、さっきまでの和やかな空気は一瞬で凍り付き、俺は思わず息をのんだ。
怒ってる? 怒らせた? なんで??
高校生活において文化祭は大事なイベントだろう。学校の女子はもちろん、きっと他校の子だって翔目当てにたくさん来る。そうでなくても翔は友達が多い。それなのに、わざわざ俺に時間を割く必要はないじゃないか。正直、一緒に回るなんて考えもしなかった。
「今のは明希ちゃんが悪いと思いまーす」
「私もそう思いまーす」
「僕も―」
「なんでだよ?!」
俺に味方はいなかった。戸惑う俺をあっさりとスルーした三人は何事もなかったようにまたご飯を口に運んでいる。
でも、圧のあるきれいな微笑をこちら向ける翔は俺を逃がす気はないらしく、また低い声を出した。
「明希、文化祭一緒に回ろうね?」
「……はい」
どうやら俺に拒否権はないらしい。
でもまぁ、今年もどうせボッチだと思ってたし、翔と回れるなら嬉しい。
えっ、俺……。
うれ、、、しい、、のか。
学校としては来年度の入学志願者獲得のための宣伝みたいな部分もあって、金土と開催する計二日間のうち、土曜日は丸一日一般公開をして結構大々的にやる。
各クラスと部活ごとの出し物や模擬店なんかもあって結構盛り上がるが、去年の俺はクラスの出し物の裏方をしただけで終わった。帰宅部な上にボッチだったからね。
学校のイベントなんて陽キャのものだ。陰キャの代表ともいえる俺は今年もボッチ確定だろうと。そう思ってたんだけど。
「文化祭、楽しみだな~」
食卓に並んだアジフライを口に運んでいると翔がそんなことをいうから、つい、さすが陽キャ代表、と思ってしまった。
ちなみにこのアジフライは翔がスーパーで買ってきた今日の手土産だ。前にフライが食べたいけど魚は高いからなぁと俺がぼやいていたからだと思う。
衣はサクサクと食感がよく、厚みのある身はふわふわでめちゃくちゃおいしい。とてもお高そうである。
初めてうちに来て以来、翔は食材やら惣菜やらを手土産にして、夕飯を食べに来るようになった。手土産はいろいろだが、この間なんて、ついに白米を10キロ持ってきた。
さすがに小遣いで買った食料をもらうのは申し訳ないと断ったのだが、「俺が自分で稼いだお金だから大丈夫」と、押し切られてしまった。
翔が言うには小学生のころから投資で稼いでたとか何とか…。別世界の話過ぎて耳の右から左へ通り過ぎていったからよく覚えていない。
夕飯を作るのを手伝ってくれるときもあり、並んで台所に立っていると後から孝太郎の盛大な舌打ちが聞こえる。もちろんスルーだ。
孝太郎は相変わらず翔を嫌っているし、うちに来ればひたすら悪態をついているが、なんだかんだこうして食卓を共にしている。
多分、翔が持ってくる食料に負けたのだろう。この前はずうずうしくも牛肉を持って来いと要求していた。本当に持ってきそうだからヤメロ。
「三星くんも一緒に回らない?」
「絶対に嫌。学校では絶対絡まないで」
「頑なだなぁ」
不機嫌を全開にふんっと孝太郎は鼻を鳴らすが、翔はそれを見て楽し気に目じりを下げた。
前に孝太郎の態度は気分が悪くならないのかと聞いたが、翔的には「おもしろいし、威嚇してる猫みたいでかわいい」らしい。ちょっと、いや、かなり意味不明だ。
俺と孝太郎が一緒に住んでいることがばれてから、孝太郎への”恋心”については話していない。でも、こうしてうちに足しげく通ってくるのは孝太郎との距離を縮めたいからなんだろうと思っている。
現に、夕飯ができるのを待つ間なんかに、二人並んで本を読んでいたり、(ほとんど翔が一方的にだけど)話をしていることもある。共通の趣味というのはやっぱり仲を深めるにはいい素材だ。
孝太郎も翔のことをもっと知れば、『好きになる』とまではいかないにしても、『悪いやつじゃない 』くらいには考えを改めると思うし。
そうなれば、翔と孝太郎が並んでいる姿を見て、俺の胃がもやもやとストレスを感じることもなくなるだろう。
「文化祭って私もいけたりするのかしら?」
そうそう、翔がうちに来るようになってから、なぜかのんちゃんもたまに一緒に来るようになった。締め切り前とか仕事が立て込んでいるときは無理だといって来ないけど。
どうやら我が家に来ると、創作意欲が掻き立てられるらしい。お役に立ててなによりです。
「土曜日なら自由に入れますよ」
翔の答えに顔を輝かせたのんちゃんは、あれとあれは何日までにやって、あれはまだ締め切りは先だから、なんて文化祭へ参加するために脳内でスケジュール調整をし始めた。
のんちゃんは”漫画家”だということは聞いているが、仕事内容を詳しく聞いたことがないから、実際どんなものを書いているのか知らないし、売れているのかどうかも知らない。孝太郎が言うにはこんなボロアパートに住むほどではないらしいけど。じゃーなんで引っ越さないのか、とは嫌な予感がするから聞いていない。
「僕は行けそうにないから残念だな…。孝太郎たちのクラスは何するの?」
先述した通り、文化祭はかなり大々的にやるから相当数の人が来る。孝太郎の父親、優一朗さんは人混みに出ると体調を崩しやすいからと去年も来ていない。そうなると自動的に俺の父親も来ない。まぁ親に来てほしいなんていう年齢でもないので全く問題ないし、俺の父親と孝太郎の父親が一緒にいることに突っ込まれても困るし。
「俺たちのクラスはダーツバーですね」
「ダーツバー? おしゃれねぇ~」
そう、俺たちのクラスはダーツをメインとして飲み物を提供する「ダーツバー」をやることになった。もちろん、飲み物はジュースだ。でも、いろいろこだわって、ノンアルコールカクテルみたいなやつも提供する。
俺と孝太郎は提供する飲み物を作ったり、投げられたダーツを回収したりといわゆる裏方だが、当然、翔は接客係。というか、翔にバーテンダーの格好をさせたいがためにこの企画になったといっても過言ではない。女子の圧がすごかった。
さらには、ダーツで高得点をとると好きなバーテンダーと一緒に写真が撮れるとかいう特典付きだ。かなりの集客が見込まれることは間違いないだろう。めちゃくちゃ女性客に偏る気がするけど…。
「いろいろあるのよね、どこ行くか迷っちゃいそう」
「そうですね、見どころはいろいろあるし…よければ案内しますよ、ねぇ明希」
「えっお前、そんな時間ないだろ?!」
「そうだよ、諏訪野はそんな暇ないでしょ。のんちゃんは俺が案内するから」
「えーちゃんと交代制だし大丈夫だよ」
どう考えても、時間通りに交代できると思えない。それに、翔は部活の方もある。
運動部は屋外で屋台を出すのが恒例らしく、バスケ部はフライドポテトを売るんだとか。
いろいろ案は出たが、最終的にバスケ部のメンバーで作れそうなのがポテトくらいしかないという結論に至ったんだと。
それでも、なにか個性を出したい、とぼやいていたから、フレーバーとかで工夫すればいいんじゃね? と俺が何気なくいった案が採用されたらしい。
俺は翔と違って自由時間もちゃんとあるだろうから、顔を出すつもりだ。
「部活の方も大丈夫。ちゃんと自由時間は確保したし。明希と回るの楽しみにしてるんだから」
「いやいや、なんで貴重な自由時間を俺に使うんだよ」
「は?」
聞いたことのないような翔の低い声に、さっきまでの和やかな空気は一瞬で凍り付き、俺は思わず息をのんだ。
怒ってる? 怒らせた? なんで??
高校生活において文化祭は大事なイベントだろう。学校の女子はもちろん、きっと他校の子だって翔目当てにたくさん来る。そうでなくても翔は友達が多い。それなのに、わざわざ俺に時間を割く必要はないじゃないか。正直、一緒に回るなんて考えもしなかった。
「今のは明希ちゃんが悪いと思いまーす」
「私もそう思いまーす」
「僕も―」
「なんでだよ?!」
俺に味方はいなかった。戸惑う俺をあっさりとスルーした三人は何事もなかったようにまたご飯を口に運んでいる。
でも、圧のあるきれいな微笑をこちら向ける翔は俺を逃がす気はないらしく、また低い声を出した。
「明希、文化祭一緒に回ろうね?」
「……はい」
どうやら俺に拒否権はないらしい。
でもまぁ、今年もどうせボッチだと思ってたし、翔と回れるなら嬉しい。
えっ、俺……。
うれ、、、しい、、のか。

