ゲーム主人公のお師匠さまが、なぜか俺の先生として現れた。

 ラビア・イーボン。

 綺麗な紫色の長髪にパープルの瞳、一般男性を上回る背丈にとんでもない2つのタユンポヨン。

 まてまてまてまて~~~

 どういうことだ?

 「どうした? 君がアビロスなのだろう? 敬称をつけなくて怒っているのか? 悪いが自分の生徒に敬称はつけん主義だ。依頼を受ける際に父上のサシアン殿からも了承を得ている」

 「い、いえ。俺がアビロスです! よろしくお願いします!」

 ラビアの目が鋭く光った。俺の全身にその視線が突き刺さる。

 怖っ……そういえば原作でも、ゲーム主人公をボロクソにしごき倒したらしい。

 「ふむ、目つきはまあまあか……だがあとはダメダメだな」
 「え? はい? えっと……」
 「まあいい! さっそく始めるぞ! 屋敷の訓練場へ来い!」

 ええ! 着いてすぐにやってくれるのか? お茶とかしないんだな。
 まあ、俺も今すぐにでも訓練を開始したいと思っていたところだ。

 とにかくこの体は鍛えまくる必要がある。

 ゲーム原作では、一切訓練などしなかったアビロス。
 サボりまくって特殊性癖を最優先にしたために体力・魔力ともに並以下だ。

 また、訓練は入学試験に合格するためにも必要なことだ。試験には筆記以外に実技試験がある。
 貴族の学園入学は必須だからだ。4大貴族の息子である以上は試験に合格して入学しないとマズイ。


 訓練場に移動した俺とラビア先生。

 「―――よし! まずは実力を見てやる! 好きにかかってこい!」

 俺の手には木剣が握られている。

 「では―――! いきます!」

 俺は地面を蹴りあげて、ラビア先生との間合いを詰める!

 詰める! 詰める! 詰める! 


 …………いや詰まらないんですけどぉおお!


 「せ、先生……逃げないでくださいよ、ハアハア」

 「アハハハ! 逃げるだと? 私は軽くステップを踏んでいるだけだぞ!」

 たしかに……ラビア先生は俺が接近すると同時に後ろに跳んでいる。

 「アビロス! 間合いを詰めるとはこういうことを言うんだ!」

 そう先生が叫び終わらないうちに、俺は10メートルぐらい吹っ飛んでいた。
 木剣は、へし折れてただの柄だけになっている。


 なんだこれ? なにも見えなかった……


 ニヤリと口角をあげた先生は、再度一瞬で俺の間合いに入って来る。

 「ちょ! 待ってください! 木剣折れました! 新しいものと交換―――グハァぁああ!」

 「アビロス! おまえの依頼はより実践的な訓練だったな。なら実戦で剣が折れても替えを待つほど敵は甘くないぞ!」

 本日2回目の吹っ飛ばされで、先生の言葉が耳鳴りのように響く。

 ―――なるほど。そりゃそうだ。

 ここで踏ん張れなければ、この後の破滅フラグなんか回避できないぞ。

 「アビロス! 全力でかかってこい! それともそれがおまえの全力か!」

 ふたたびラビア先生の目にも止まらぬ一撃が飛んでくる。

 ―――今できること。


 「うぉおおお! 気合の肉壁(アビロスシールド)!!」


 ラビア先生の斬撃が、俺の肩から胴にかけて斜めに一閃する。

 「―――ぐっぎぃぃぃいいいい!」

 衝撃で数歩下がるも、吹っ飛ばずにその場に踏ん張る。

 「おまえ……」

 先生の眉がピクリと少し動いた。
 というか……痛ってぇええええ! 意識飛びそうぅううう!

 これが、俺が出来ることその1だ。

 ―――そして

 「重力減魔法(グラビティダウン)!」

 重力減の対象をラビア先生に!
 ―――先生を浮かして、わずかでも隙を作る! 
 踏ん張りがきかないところへ、ありったけの力でタックルだ!

 俺が出来ることその2がこれだ。現状この2つが俺の持ち札である。


 ―――タユンポヨン


 あれ?


 タユンポヨン~~タユンポヨン~~


 なんかめっちゃ膨らみ揺れまくってんですけど!
 ラビア先生はスカートではない、ホットパンツだ。―――だからって胸揺らすやつがあるか! 俺のバカ!

 ぐっ……肝心の先生自体はピクリとも浮かないぞ。

 「アビロス……これはどういうことだ」

 先生が鬼のような視線を浴びせてくる。

 「いや、これは先生に隙を作って……さ、作戦なんです!」
 「ほう~そうか作戦か」

 その後、俺は再度吹っ飛ばされた。


 「アビロス! おまえの実力はよくわかった! 体力、技術、魔力、どれをとっても並以下だ!」

 両腕を組んで仁王立ちのラビア先生。

 「だが安心しろ。ワタシが指導を引き受けた以上は並み以上の戦士に育てあげてやる! まずは基礎体力だ! 底なしの体力と不屈の精神力をみっちり叩き込んでやる!」

 「は、はい! 先生!」

 疲れきった体から気力を絞りだして返事をした俺は、さらに地獄を見ることになる。
 訓練開始である。もうすでにボロボロだけど。


 「アビロス! なにをやっている! おまえは魔物に襲われた時も疲れたといって足を止めるのか!」
 「は……はい! 先生、まだ走れます……ぬぅううう」

 「アビロス! なにをやっている! 魔力が尽きただと? まだあるだろうが! 限界まで絞り出せ!」
 「は……はい! 先生、うぉおおおお!」

 「アビロス! なにをやっている! 死ぬ? 死ぬときは万策尽きたときだ! だが万策など尽きん! だから起きんか!」
 「ふ……ふぁい……先生、おはようございまふ……まだやれる……」


 いやこれ、地獄がすぎるぞ。まだ初日ですよ先生。


 「―――よし! 終わりだ!」

 はぁあああ、なんとか乗り切った……スパルタ希望ではあるが、これはヤバイ。もう少しであの世にいくところだった。ゲーム主人公はこんな訓練受けてたのか……そりゃ強くなるわ。

 辛いが、絶対にやり切るぞ。破滅回避のためにも―――俺は強くなるんだ!

 そう強く心に刻み込み、俺は屋敷の方へ向かう。あ~~今日の晩飯なにかな~~。

 「おい! アビロス! 何をやっている!」

 「え? 晩御飯……あ、ラビア先生も食べていきますか?」

 「何を言っている! 始めるぞ!」

 え? 始める? なにを?

 「終わったのは準備運動だ! 今から本番だ! 訓練を開始するぞ、覚悟しろよ!」


 まじかよ……


 破滅回避の前に終わったような気がするぜ……


 クソっ、やってやるよ! こうなりゃ――――――とことん強くなってやる!



 ◇ラビア先生視点◇


 アビロスか……事前に聞いていた噂とは少し違うようだな。

 依頼を受けた際はクソな評判ばかりで。どうせ大貴族のドラ息子だろうと思っていた。

 だから、初日に負荷をかけて終わりにしてやろうと思っていたのだが。
 あれだけしごかれた後なのに、本番をなんとかこなしている。

 なかなかの根性じゃないか。

 模擬戦でのなんとかシールドだったか。手加減しているとはいえ私の一撃を耐えるだと?
 普通アビロスレベルの奴であれば、一撃でのたうち回って10日は寝込むぞ。

 それに女の弱点をついてくるのもいい。実戦では生きるか死ぬかのやり取りをする。手段を躊躇する奴から死んでいくからな。

 だが、最も面白そうなのは……

 【闇魔法】だったか。今まで多くの魔法を見てきたが、聞いたこともない。これはかなりプラス材料だ。知っている奴が少ない攻撃方法は非常に有効だからだ。相手に対策を取らせる前に仕留める可能性が高くなるからな。


 こいつ本当にうわさに聞く最低ゲス野郎か? よくわからんやつめ。


 特にあいつの目がいい。いかなる状況でも死んだ目をしない。


 まあ―――嫌いではないな。


 すぐに終わらせてやろうかと思ったが、もう少し様子を見てやるか。

 ―――今日は眠れると思うなよ、クフフ。