ゲーム世界の悪役貴族に転生した俺、最弱の【闇魔法】が実は最強だったので、破滅回避の為に死ぬ気で鍛えまくっていたら、どうやら鍛えすぎてしまったようです~なぜかメインイベントを俺がクリアしてしまうのだが~

 馬車が急停車したかと思うと、頭上から唸るような轟音が耳を貫く。

 「あ、アビロス! あれは!」
 「ああ、これはヤバいな」

 大きな揺れと共に、アダマイトの大岩が谷底にいる俺たちに向かって落下してくる。

 これはゲーム原作でも発生するイベント「大岩シューティング」だ。

 原作ではシューティングゲームの画面に切り替わり、上から落ちてくる岩を斬撃を飛ばしてバシバシ打ち落とすという、ちょっとおふざけの入ったイベント。

 が、ここは現実世界だ。

 当然ながらお気楽なシューティング画面になど切り替わらない。

 ってことは―――

 ガチの大岩が落ちてくる――――――って。


 ――――――デケェ!!


 なんだあの大きさは! 落石にしてもデカすぎないか!? 
 しかも、1つどころではない! ゴロゴロ落ちてきやがる!

 ゲーム原作であれば、シューティング画面をクリアすれば、主人公であるブレイルが【ライトスラッシュ】で見事大岩を両断するというシーンに切り替わるのだが……

 ハハッ、ちょうどいいじゃないか。ブレイル! 訓練の成果を見せるときだぞ!

 ……って!

 おい、ブレイル……おまえ……

 「ブレイル! 剣はどうした!!」
 「ええ~~バックパックの中だよ~~」


 ―――バカ野郎ぉおお! 武器は常に携帯しておけよ!


 ブレイルを待っている時間はない―――

 俺は素早く【ダークブレイド】を抜いて、馬車から勢いよく飛び出した。

 「アビロス―――支援します!」
 「アビ―――わたしもやるぞ!」

 俺と同じく初動の速いステラとマリーナ。

 「よし―――絶対に防ぎきるぞ!!」


 ここの大岩はアダマンタイトを多く含んでいる。つまり硬いってことだ。
 なので生半可な攻撃は通用しない。


 出し惜しみなしだ―――


 「ぶっ壊れろ!―――上級重力付与剣(ハイグラビティソード)!!」


 眼前に迫る大岩に、超重力で加速された斬撃が叩き込まれる。

 大岩は盛大な轟音を響かせて、バカっと真っ二つに割れた。


 チッ―――粉々には出来なかったか!


 が、すかさず両脇から追加の攻撃が飛んでくる。

 ステラの放つ、聖属性魔力弾の束が―――左の破片に。
 マリーナの打ち込む炎の突きが―――右の破片に。


 大岩を完全に粉砕する。


 ハハッ、やっぱこの2人は凄いな。頼もしい限りだ。


 さて―――どんどんいくぜぇええ!!


 俺とステラ、そしてマリーナは存分に己の力を振るった。


 「ふぅ……あらかた防ぎ切ったか」
 「ええ、アビロス。お疲れさまです」
 「ハ~ハッハ、アビ。いい運動になったな」

 馬車の隊列を見る限り、死者やけが人も出ていない様子だ。
 他のチームからも何人かは外に出て対処していたようだが、それもわずかな人数だ。

 生徒の中では、俺たち3人が抜きんでて対応していたのは間違いない。

 ちなみにはるか上空にまで飛んでいたのはラビア先生だ。
 1人でばっこばっこと大岩を叩き潰していた。

 やべぇ……やっぱりとんでもない人だ……


 俺たちは自分の馬車に戻り、みんなの安全を確認する。


 ナリサとウルネラは、馬車がすぐに出発できるよう整備をしてくれていた。顔色は良くないが、恐怖に怯えながらも自分たちの出来ることを頑張ったのだろう。


 そして馬車の片隅で震えている少女―――

 「エリス、大丈夫か?」
 「……はい」
 「ケガしてないな?」
 「は……はい……」

 マリーナが駆け寄りギュッと抱きしめた。

 完全に放心状態だ。まああんな常識外れの岩が落ちてきたんだ。仕方ないだろう。


 あともう一人。

 「ブレイル、武器は常に携帯しておけ」
 「う、うん……ごめん……アビロス君」

 ブレイルは抜刀して馬車の前に立っていた。

 「ブレイル君は、ずっと剣を構えてましたよ」

 ナリサが脇から口をはさむ。
 ハハッ、馬車の外で構えてたのか。

 まあ進歩はしたか。以前のブレイルならアワアワして、馬車に隠れていただろう。

 「ブレイル!」
 「な、なに? アビロス君」

 「―――次は遅れるなよ」
 「う、うん。わかった」

 改めて感じたことだが。
 ゲームの世界観をそのまま現実に持ってくるってのは、想像以上にハードだな。

 今回のイベントは、ゲーム原作だとおふざけ要素の入った軽いイベントだ。

 だが、そのおふさげは現実になった瞬間に恐怖の現場と化した。

 もし俺がただのやられ悪役だったら。
 ステラやマリーナが原作を超える成長をしていなかったら。
 ラビア先生が学園に、いやこの隊列にいなかったら。

 ―――たぶん普通に全滅だ。


 エリスやブレイルの反応は普通なんだろう。

 だが、いつまでも普通じゃダメだ。

 この演習で変わってもらうぞ。


 とくにブレイル――――――主人公であるおまえは絶対だ。