ゲーム世界の悪役貴族に転生した俺、最弱の【闇魔法】が実は最強だったので、破滅回避の為に死ぬ気で鍛えまくっていたら、どうやら鍛えすぎてしまったようです~なぜかメインイベントを俺がクリアしてしまうのだが~

 学食で俺に声をかけてきた人物。
 ブレイル・ゴードン。このゲームの主人公である。

 試験に落ちたはずのブレイルがなぜ学食にいる?

 もしかして―――補欠合格でした「てへ」とかってオチか!
 形なんてどうでもいい、入ってしまえばこっちのもんだからな!

 おまえにはしっかりと学園に入って、主人公ムーブしてもらわないと困るんだよ。

 「ブレイル? なぜ学食にいるんだ?」
 「え? ああ、そうだよね。本来僕は学食に入れないんだけど、頑張って交渉したんだ!」

 交渉……?

 まさか裏金か!? いや……ブレイルは平民だし、そんなパイプはないはずだ。
 ていうか、主人公が裏金とかやめてくれ。

 「ほら、学園の学食はメニューが色々充実しているでしょ。それになんといっても安いじゃない!」
 「お、おう……」
 「僕はお金があまり無いから……だから生活していくうえでもなんとしなきゃって、頑張って交渉したら、特別に許可してもらえたんだ」
 「そうか。それは良かったな……」

 ぐっ……頑張りどころが違うぞ。学食じゃなくて、学園に入ってくれよ。

 とにかく、ブレイルが門番である事実に変更はないことがわかった。

 そうそううまくはいかないか……
 当の本人は、そんなことは関係ないかのように食事を楽しんでいる。

 「うわぁ~~大勢で食べると美味しいね! アビロス君!」

 ブレイルはその持ち前の明るさと素直な性格により、速攻でアビロスチームのメンツに受け入れられていた。

 やはり、こいつは主人公としてのポテンシャルを持っている。
 クソ……なんで落ちたんだ……。

 このままじゃ気さくな門番さんで終わってしまうじゃないか。

 俺が一人で頭を抱えていると、袖をクイクイと引っ張るブレイル。

 「なんだ?」
 「ね、ねぇ、アビロス君。君の友達はみんなすっごく綺麗な人たちだね」
 「ああ、たしかに美人ぞろいだが」
 「僕はすっごい田舎の出だから。こんな華やかな人たちと話すのが初めてなんだ」

 ブレイルは平民だ。そこまで裕福な家の子ではないはず。
 だけど学園でたくさんの仲間を作り、メインイベントをクリアして貴族たちからも認めれるようになる。
 ここにいる聖女ステラや第三王女のマリーナは、ブレイルのメインパーティーメンバーだ。

 ん? ブレイルの手が止まっている。彼の視線の先には―――

 「どうした? ブレイル?」
 「あ、いや、その。聖女様ってはじめて見たから……」
 「見たから?」
 「すっごい綺麗だし、かわいいなぁ~~って……」

 こいつ、なに赤面してやがる。
 当たり前だ。ステラだぞ、学園でもナンバーワン美少女なんだよ。

 ブレイルの言葉に気付いたステラが俺たちの方を向いた。

 「まあ、ありがとうございます。ブレイルさんも素敵ですよ」
 「うわぁ~~アビロス君~~僕、聖女様に素敵って言われたよ」

 にこやかに笑顔を交わす2人。
 原作通りであれば本来のパートナーだからな、根本的に相性はいいのだろう。

 が――――――


 なんかイライラするぞ。


 ブレイル、調子にのるなよ―――それ、ただの社交辞令だからな!

 と心の中で叫んだ俺。

 当のブレイル本人は俺が黙ってしまったので、首を傾げている。

 そして今度はジッと俺を見つめ始めた。

 「でも、僕はアビロス君が一番いいと思う……やっぱり君が一番かも」


 ――――――はい?


 何を言っている? 俺は悪役アビロスだぞ!

 「これだけ綺麗な人たちの中でも、やっぱり君はひときわ輝いているよ」

 おいおいおいおいおい!
 変なフラグを立てるんじゃねぇ!

 「これからもよろしくね。アビロス君」

 ステラの時より顔が真っ赤じゃねぇか! そんなボケはいらん!!

 これ新手の破滅フラグか?
 これから始まるかもしれないなにかに、寒気を感じるぞ。

 しかし、ブレイル自身もやはり好青年というか美少年だ。
 整った顔立ちに、黒髪が爽やかに揺れる。

 が、なんかな~~~


 ブレイル、おまえ――――――ちょっと小さくないか?


 「なあ、ブレイル。ちゃんと食べているか?」

 俺は唐突に聞いてしまった。しかし気になる。顔はゲーム原作のキャラデザそのものだが、なんか全体的にちっこい気がするんだよな。

 「うん! いっぱい食べているよ! みて」

 ブレイルが手元のでっかいボールを俺に見せてきた。

 緑やら黄色やら赤やら……色とりどりの葉っぱが―――

 って、野菜ばっかじゃねぇええか!

 「僕、野菜大好きなんだ。故郷でも畑から育ててたからね。学食はいい野菜がいっぱいだから、毎日野菜食べてるよ」

 野菜が好きという事は否定しない。俺も嫌いではない。

 だが、あえて言おう―――


 肉をくえぇええええ! このやろう! 筋肉の元だぞ!


 「ブレイル! 俺の焼肉定食をくえ!」
 「え? でも僕、お肉はちょっと……あ! これってアビロス君が食べてたやつだから……」

 はじめ拒否っていたブレイルが、満面の笑みで肉を頬張り出した。

 「うわぁ~~これがアビロス君の味なんだね!」

 なにか不穏なセリフを発しているが、まあよしとしよう。
 こいつには定期的に肉を食べさせないと。主人公として相応しい肉体になってもらうぞ。


 そろそろ昼飯タイムも終了かという時に、マリーナの元へ侍女らしき女性が駆けつけてきた。
 なんだ? 侍女の表情がかなり青ざめている。

 侍女の耳打ちにマリーナの顔が一瞬で険しくなる。


 なにかあったな、これは。


 俺は原作知識を総動員して脳みそをフル回転させた。
 学園初期でのイベント、マリーナ絡みのイベント……あ!

 あった! 

 第4王女エリスの誘拐事件だ。

 マリーナの妹が誘拐されるのを救出するイベント。これによって、マリーナとブレイルやステラの結束力が高まる。
 またしてもメインイベントか……

 もちろん王家も捜索に動いているが、当日は騎士団が大規模演習中で即時に大人数を動員できない、それに公にはできないので、対応が後手にまわっている。てな状況設定だったか。

 なによりも、マリーナ自身が第4王女を溺愛しているはずだから、じっと等していられない。

 さて―――

 このイベントには成功ルートもあれば、失敗ルートもある。
 ちなみに失敗ルートは第4王女は死んでしまう。その悲しみを乗り越えてマリーナが成長するという伏線になるルートだ。
 悪役アビロスの俺は、聞かないふりをしていればいいんだが。

 しかしな……

 「マリーナ、俺の協力が必要か?」

 俺はわざと全員に聞こえるように言った。

 まわりは、「え?なんのこと?」みたいな顔だ。

 「アビ、よく聞こえていたな?」
 「ああ、俺は耳と勘がいいんだ」

 俺は適当に嘘をつく。そして、話の概要の確認を取ると、静かに頷いた。

 「なら決まりだな、早速……」
 「まて! ありがたいが、みんなを巻き込む訳にはいかない……これはわたし自身の問題なんだ」
 「だが、1人でやれることは限られるぞ」
 「しかし……」

 いつもはバンバン己の意見を主張しまくる戦闘狂のマリーナだが、その声にいつもの勢いがない。
 よほど、妹の第4王女が心配なのだろう。本当は力を貸して欲しいはずだ。

 さてと、どうするか……


 『ああ? 俺様が力を貸してやるって言ってんだ! 素直に頷きやがれ! 王女も聖女も誘拐された王女も、全部俺様のものなんだよぉお!ゲヘヘヘ~~』


 でたよ、久々の悪役アビロスクソ発言。

 「わかった……力を貸してくれ。すまない、アビ」

 おお! マジか! 結果オーライなことになった。
 悪役発言もたまには役に立つじゃないか。若干ステラからの無言の圧とジト目を感じるけどな。

 「私も手伝いますよ。マリーナ様」
 「マリーナさま、わたしも……なにか助けになれると思います」
 「王女さま~~ウルも頑張るよ~~」

 「み、みんな……ありがたい! 恩に着る!!」

 ハハッ、マリーナにいつもの声が戻って来たようだ。
 チーム全員の意思も固まった。

 なら目指すは成功ルートだ。
 妹の死を乗り越えて成長する? ゲームならばいいだろう。

 だがここは現実世界だ。
 死んだら二度と会えない。文字通りジ・エンドだ。


 ―――いかせるかよ。


 そんなクソルートにはいかせねぇよ。絶対に。