「ご主人様~~朝ごはんできたです~~」

 ララが元気に俺を呼びに来た。

 「ご主人様、ご飯食べたら外出ですか?」
 「ああ、そうだな。少し買いたいものがあるからな」

 俺は入学試験に無事合格した。来週から学園と、王都での寮生活がはじまる。

 「あ、あのご主人様……」
 「ん? どうしたララ?」

 モジモジするララ。

 「いえなんでもないです! お買い物、ララもついていくです!」
 「ああ、助かるよ」

 俺のメイドさんはかわいいガッツポーズをして、タタッと去って行った。
 なんだ? 気のせいか? 何か話したそうな感じもしたけど。

 ララは俺にとって特別なメイドだ。専属メイドだから特別というのではなく、彼女が近くにいるだけで、なんだかこっちも元気になるんだよな。
 不思議な子だ。

 さて、朝食後は買い出しだ。なんかこういうのちょっとワクワクする。前世でも新しい街に住む時は色々買物したもんだ。

 しかし……俺の脳裏に別の事が浮上してくる。

 入園試験当日の帰り道のことだ。

 俺はゲーム主人公のブレイルとバッタリ遭遇した。

 しかも何故か俺と友達になってくれとか、ぬかしやがった。

 どうなってるんだ? これは罠か?

 いや、俺がアビロスに転生してからは、極力恨みを買うようなことはしていない。
 ましてや、ブレイルとは初対面だった。
 つまりブレイルに俺へのヘイトは溜まっていないはず。


 ―――てことは、マジで友達になろうとしている?


 いやいや、俺をぶっ殺す張本人だぞ。絡みたくないキャラ、ナンバーワンだ。

 まあ、あの時だけの話だろう。ブレイルは平民出だが、持ち前の正義感と人当たりの良さで次々に仲間ができていくはず。俺を仲間にするメリットなどない。

 そうだ、そうに違いない。そう思って、絡まないようにしよう。



 ◇◇◇



 「ふむ、いよいよおまえも入学か」
 「まあまあ、アビロスちゃん~ステラちゃんをしっかり守り切るのですよ。あの子人気でしょうから、変な虫がいっぱい寄ってきそう~~ああ~~母は心配です!」

 「父上、母上、ありがとうございます。しっかり勉学に励んできますよ」

 俺は朝食のスープを口に運ぶ手を止めて。父上に返事をする。
 母上の暴走気味なセリフはスルーだ。

 にしても、ステラは間違いなく学園で人気者になるだろうな。
 超絶美少女で、気が利いて、分け隔てなくコミュニケーションが取れて、頭も良くて、聖女というステータスがあって。

 いや、ヤバいなこれ……。

 俺はステラが好きだ。もうこれは間違いない。
 もっとも近寄ってはいけないキャラの一人に惚れてしまった。

 だからあながち母上の暴走セリフは間違ってはいない。
 変な奴が寄ってきたら、いい気分はしないだろう。

 ただし、これは俺にとってはの話だ。

 これは相手の気持ちがどうなのかというところが重要だ。
 母上は、俺たちが付き合っているかの言動をするが、現実的には付き合ってなどいない。

 ステラが俺に好印象を持っているのはなんとなくわかってきた。だが、それが恋愛感情かと言うと違うと思われる。

 前に焼肉に行った際にそれとなく聞いてみたことがある。
 その時は、4大貴族として、ラビア先生の愛弟子として今後ともよろしくお願いします。といった回答だった。

 つまり、愛しているのLOVEとはちょっと違うという事だ。

 この問題いつも最終的にこの結論にいくんだよな。


 これが正解なのか?


 ゲームでしか恋人がいなかった俺には、よくわからんのよね。

 ということで、今後もステラには絡むし。何かあれば守り通す。
 ゲーム主人公のブレイルには極力絡まない。

 この方針でいくことにした。

 「そう言えばアビロスちゃん。おつきのメイドさんは決めたのかしら?」
 「あ、そうだった……!?」

 しまった、忘れてた。
 母上の言っているのは、学園に連れて行く使用人のことだ。

 「もう、アビロスちゃんメッですよ~~誰を選ぶのかはアビロスちゃん次第だけど、あの子はずっと待っているんですからね~~」

 そうだった……最近、色々と考え事をしすぎていたようだ。しっかり入園準備をしないと。

 そして……


 朝の顔の意味がわかったぞ。ララ。



 ◇◇◇



 ◇ララ視点◇


 「ララ、こっちの店も寄っていいか?」
 「ハイです! 行くです!」

 ふわぁ~~久しぶりのご主人様との外出です~~。

 ご主人様は最近とってもお忙しそうです。
 だから……ララの事でお時間取らせちゃダメです。

 「ララ、このカップは野外演習でも使えそうだぞ」
 「ハイです! それは耐火率が高いので日常火魔法でも壊れないです!」
 「おお、ってことは上手くやれば野外でも温かい飲み物が飲めそうだな!」

 ご主人様とっても楽しそうです。

 ララはご主人様のこのお顔が好きです。
 日用品など、誰かに使いを走らせればいいですし、そもそも学園寮はそこそこ立派だと聞きます。
 だからカップもあるはずです。

 でも……ご主人様はこだわりもあるし。自分で選ぶのが好きです。
 5年間でいろんなご主人様を見てきたから、ララにはわかるです。

 「ふむ、備えあれば憂いなしだな」
 「ハイです!」

 これもご主人様がたまに使う特別な言葉です。他の人は聞いてもポカーンとしてますが、ララにはわかるです。

 ララはご主人様の言った言葉は一言も忘れないです。


 5年じゃなくて……もっとご主人様の傍にいたいです……


 たまに本音が出そうになるです。

 でもララのワガママを言っちゃダメです。
 学園生活はご主人様にとって大事な時間です。お屋敷には、ララよりもきめ細やかなサポートができる先輩メイドさんたちがいっぱいいるです。


 だから―――ワガママ言わないです。


 「よし、色も選べるぞ! 俺は黒だな。ララは何色だ?」

 「ハイです! え~と、ララは……!?」


 え!? ララの分!?


 「え? えと……ご主人様?」

 「ララの分だよ。やはり緑かな? しかし赤もいいけどな」


 連れて行ってくれるですか―――


 「どうした? ララ?」
 「そ、そのあたし、おつきのメイドとして学園に行っていいですか?」

 ずっと言いたくても言えなかった言葉。

 本当は怖かった。

 ―――違うメイドさんの名前がご主人様の口から出てきたら?
 ―――もうララは必要じゃないってわかったら?

 答えを聞くのが怖くて怖くてたまらなかった。


 「当たり前だろ? 何言ってるんだ? 俺のメイドはララ以外にはいない。学園を卒業してもその先もずっとだ」

 「ふ、ふえぇええ……」

 ダメです。もう涙が止まらないです。

 「言うのが遅くなってしまった。悪かったララ。俺についてきてくれるか?」

 「いぎゅましゅでしゅ~~」

 もうグダグダです~鼻水も出ちゃてるです~~


 ご主人さまが、ララの顔を優しく拭いて真っすぐに視線を合わせました。


 「ありがとう。ではララが俺のおつきメイドで決定だ。よろしく頼むぞ」

 「―――は、ハイです!」


 その日一番の元気な声。


 ララはご主人さまに一生ついていくです!!