「―――えいっ!」

 ステラは光の光弾を煙幕代わりに連発して、本命の聖杖でオークキングに一撃を放つ。


 俺も同じく黒い炎を連発して、その隙に間合いを一気に詰め―――

 「―――上級重力付与剣(ハイグラビティソード)!」

 超重力の黒い斬撃を叩き込む。

 左から純白の輝き、右から漆黒の閃光、ステラと俺の強烈な一撃をお見舞いする。


 「フゴォオオオ! お、オンナにさわられた~~、おまえスゴクいい~~」


 頭の王冠を揺らしながら、興奮した様子でステラをゲヘゲヘと見るオークキング。

 ステラの強烈な一撃を喜んでいる!?

 「き、気持ち悪いわね! アビロス……ほとんどダメージを受けていません!」
 「クソ、硬いな……ステラ! もう一回いけるか!」

 「ええ! 大丈夫です!」

 俺たちは再び連携を取り、強烈な一撃を見舞った。

 が、再びケロッとしているオークキングの雄たけびが、ダンジョンにこだまする。
 その後も何度も攻撃を加えた俺たちだったが、結果は変わらなかった。

 おかしいぞ。ゲーム原作でもかなりの強さを誇るオークキングだが。ここまでの耐久性は無かったはず。

 「―――アビロス! 試してみたい魔法があります!」

 ステラが聖杖を掲げて聖魔力を集中しはじめた。今までとは違うパターンだ。
 なにかとっておきがあるようだな。

 「―――よし! こっちは任せておけ!」

 俺は黒い炎を連発して、オークキングの体全体にまんべんなく命中させる。
 オークキングの注意をこちらにひくためだ。

 さほどダメージは与えられないが、消えない炎を手で払わせることで時間は稼げる。

 「フゴォオオオ! お、オマエじゃま~~はやくシネェ!」

 オークキングはその大きな両腕を振り回しながら苛立った声をあげる。
 子供の癇癪のような攻撃をかわしていると、ステラの声がうしろから飛んできた。

 「アビロス! 準備完了です! そこどいてください!」

 ステラの聖杖が今まで以上の輝きを放っている。
 すげぇ魔力だ。聖魔力を凝縮しているな。


 「天に煌めく慈愛の女神よ! 願わくは我にその御心を分け与えたまえ! 聖なる光輪よ邪を打ち払え! 
 ――――――上級聖輪魔法(ハイホーリーリング)!!」


 ステラの聖杖から、純白の輝く刃が巨大な輪となってオークキングに直撃した。

 「すげぇ……」

 神々しいまでの光の一撃に、ちょっと惚れ惚れしてしまった。

 しかし良く考えたら、これゲーム後半で習得する聖魔法だな。
 おまえ、ゲーム開始前にカンストする気かよ……

 「どうですか! この変態モンスター! 大人しく地にかえりなさい!」

 ビシッと決めセリフを叫ぶ聖女さま。
 よし! 流石にこれで……


 「フゴォオオオ! お、オンナのマリョクぅうう! お、オマエいい~~!」


 オークキングは胴体に切り傷がついてはいるが、今だその活力は衰えていない。いやむしろ高まった……!?

 嘘だろ……高濃度の聖魔力を凝縮した刃だぞ……ゲームなら完全にやつを両断しているはずだ。


 「アビロスもう魔力が……」

 ステラが聖杖を支えに片膝をついて、俺に視線を向ける。

 魔力が尽きたか。俺も使えてあと1回ってところ。

 しょうがねぇなあ……若干気は乗らないが。

 「ステラ、ここは撤退だ」
 「え、何を言っているのです! アビロス!」

 ステラは再び立ち上がる。その瞳から強い闘志を感じる。

 「生き残れば次がある!」
 「そんな! あきらめるんですか!」
 「ここで死んだら終わりだ! 頼む俺の言うことを聞いてくれ!」

 「わかりました……たしかにアビロスの言う通りですね」

 ステラは少し冷静を取り戻したのか、渋々ながら頷いてくれた。

 現状勝てる要素がない。
 このオークキング、俺の原作知識をはるかに超える耐久力だ。

 クソ……完全に読み違えた。

 それに俺の原作知識通りなら―――

 「フゴォオオオ! は、はんげきダァアアア~~」

 オークキングの身体が茶色い光を放ち始める。

 オークキングは今まで守りに徹していたのではない。
 溜めていたのだ。

 キングの大技、土属性の特殊攻撃【オークブレス】発動のために。

 「ステラ! 俺につかまれ!―――重力減魔法(グラビティダウン)!」

 俺とステラがフワリと浮き始める。

 「キャッ! 浮いてどうするんです? アビロス」
 「口閉じてろ! 跳ぶぞ!」

 さあ、残りの魔力……全部くれてやる!

 「漆黒の闇よ、その黒き炎で照らし尽くせ!
 ―――黒炎照射魔法(ブラックレーザー)!」

 黒い炎をブースターにして、後方へ!


 ――――――跳ぶ!!


 そこへ巨大な岩の弾丸が機関銃のように飛んでくる。
 【オークブレス】だ。

 だが俺たちの速度はグングンあがる。岩の弾丸よりも速く―――

 これは相当なGがかかるな。ステラは何が起こっているのかわからず、顔がこわばっている。できるだけ空気抵抗にさらされないように、彼女の頭を俺の胸に引き寄せて腕で覆う。

 そのまま俺たちは、岩の弾丸の射程外にまで退避した。

 「ふぅ~~初めて使ったがなんとかなったな」
 「ちょ! アビロス! なんですか今の! 舌を噛むところでしたよ!」

 いや、だから口閉じてろって言っただろ。

 これは俺の【闇魔法】応用技だ。体を軽くして、黒い炎をロケットの推進装置にして高速移動する。
 でも、コントロールがイマイチだった。ぶっちゃけ壁に激突したら即死してたしな。

 まだまだだな……学ぶべきことは山ほどある。

 「さあ、ここまで来れば大丈夫だろう」
 「ええアビロス……でも私たちの卒業試験は……」
 「ああ、作戦の練り直しだな」
 「え? アビロス?」
 「だから、ダンジョン1階層にもどって野営だ。体力魔力を回復させてリベンジマッチだ」
 「ええ? 私てっきりアビロスは試験を諦めたのかと思ってました」

 んん? なんだステラ? もしかして卒業試験を諦めるつもりだったのか?

 「そんなわけないだろ、ここは一時撤退しただけだ。まだ時間はある。倒すまでやるぞ!」
 「ええ! そうですね、アビロス!」

 そして、一階層へ向かうおうとした時だった。

 「あ、アビロス! この地響き」

 通路の奥から徐々に近づいてくる影。
 オークキングだ。

 キングは走りながらも再び【オークブレス】の発射体制に入っていた。

 ウソだろ!? なんのためもなしに連発する気だ。
 ゲーム原作であれば、一度放てば再び長いためが必要となる。

 「チッ……原作通りじゃねぇ……」

 これはさすがに終わったのか? 万策尽きたのか?

 いや―――

 違うよなぁ~~~

 5年前、あの時に決めたんだよな。

 破滅回避? ストーリー改悪? 今はそんなこと関係ねぇ……決めたんだよ。

 俺はステラの前に立ちふさがり【オークブレス】を真正面から受け止める。


 ――――――こいつは絶対守るってなぁあああ!


 「おらぁああああ!! ヘイトキャラの生命力なめんなよぉおお!」


 ハハッ、久々にゾクゾクしてきやがったぜ!