「す……ステラ……」

 なんとラビア先生の卒業試験を一緒に受ける生徒とは、聖女ステラだった。

 「フフ、ご無沙汰でしたねアビロス」

 その透き通るような綺麗な銀髪を揺らして、微笑む聖女。

 いやいやいや―――

 ちょっと待て!

 ゲーム主人公はどうした?

 あいつの強さは、ラビア先生の鍛錬がベースになっているはずだぞ。

 じゃあ誰に教わってるんだ?

 俺に危害を加えられるのは勘弁だが、あいつには強くなってもらわないと困る。
 ゲーム原作ストーリーがいよいよ動き出すんだ。大きなイベントはゲーム主人公にクリアしてもらわないと。


 ヤバいな……これはストーリー改変がマズイことになってしまっている気がする。


 「な、なぜステラなんだ……」

 「あら? 相変わらずのお言葉ですね。私と一緒じゃ嫌なんですか?」

 やべぇ、あまりの動揺に口が滑ってしまった。

 「い、いや、そんなことはない。また会えてウレシイヨ」
 「ふ~ん、なんだかあまり心がこもっていませんけど。まあ、私も卒業試験のために来ましたから! あなたに会いたくてとかじゃないですから!」

 顔を赤くして口を尖らせる聖女さま。
 そんな強調しなくても、アビロスが嫌われていることなど知っているよ。

 なんで、破滅フラグである聖女に再会せにゃならんのだ。
 ま、それはゲーム主人公にしても同じだが。

 「ご主人様~~ご飯の用意ができましたよ~~行きましょう~」

 ララが俺の手を取って、食堂に連れて行こうとする。ルンルンだ。
 そこへなんだか冷たい視線が、後頭部に刺さる。

 「ふ~~ん、随分と可愛らしいメイドさんに慕われているんですね」

 「あ~~聖女さまです! 失礼しました~~ララです!」
 「まあ、ステラよ。よろしくね」

 ララがステラの手も取り、食堂に連れて行く。
 もう片方には俺の手。

 自然と俺とステラの距離が近くなる。

 にしても5年か……

 以前あった時も美少女ではあったが、この5年でさらに超絶美少女となっていた。完全にゲームパッケージのキャラデザそのものだ。スレンダーながらも出るとこがすごい主張してるし。
 ララに引かれて、自然とタユンポヨンと揺れまくっている。いや……これララも凄いけどステラも負けていないな。

 「ちょ、アビロス近いです!」
 「あ!……ごめん」
 「ま、まあいいですけど」

 しまったガン見してしまったようだ。
 ステラの顔が真っ赤だ。いや、これ以上好感度を下げるのはマズイ。どこかで挽回せんと。

 その後、ステラとラビア先生、俺の両親というよくわからん組み合わせでの夕食をとったあと、お風呂タイムとなる。

 母上が「アビロスちゃん! がんば!」とか意味不明のエールを送っていたが。
 風呂でなにを頑張るんですか……母上。


 「ふ~~~、ようやく1人になれた」


 湯船に肩まで浸かる。なんか疲れた。

 明日は卒業試験なんだ、風呂あがったらもう早く寝よう。
 とか思いつつぐったりしていると、壁越しに隣の風呂から、女子たちのキャッキャッウフフな声が聞こえてくる。

 「ふわぁああ~~ステラさまの気持ちいいです~」タユンポヨン~
 「ウフフ~ララちゃんのも凄くいいわ~」タユンポヨン~

 ララとステラは仲良くなったようだ。夕食の時も楽しそうに会話してたし。

 俺? さして会話はなかった。そもそもヘイトキャラ設定だしな。向こうが積極的に話したくないだろうし。

 「ちょ……ララちゃんダメだって。大きいんだから自分のでしないさい!」タユンポヨン~
 「だって~~ステラさまのがスベスベぷにぷにで最高です~~」タユンポヨン~

 する!? 自分ので!? 最高!?

 タユンポヨンってなんだよ!

 いったいなにやっているんだ、あいつら……

 よし、出よう。ここにいるとなんかダメだ。俺は15歳の青年だからな。もうなんかダメだ。
 俺は早々に風呂を出て、自室のベッドにドカッと寝転がった。

 「しかしステラと卒業試験とは」

 このゲーム世界ブレパのストーリー改変は、どこまで進んでいるのだろうか。
 ステラに再会するなど思ってもみなかった。しかも同じ先生のもとに指導を受けているなんて。

 ―――いや、今はそれよりも集中しなきゃいけないことがある。

 明日の試験は必ず乗り切ってやる。
 5年間の成果を出し切るんだ。

 そう1人胸の奥に決意を固めた俺は、静かに目を瞑るのであった。

 ―――って!

 ―――全然寝れないじゃないか!


 タユンポヨンってなんだよ……



 ◇◇◇



 ステラが来た翌日。

 「よし! おまえたち。今日までよくワタシの鍛錬についてきた!」

 俺たちの前で声を張り上げるラビア先生。

 「ちょっと目をつぶって今日までの5年間を振り返ってみろ!」

 「「………」」

 5年か……色んな地獄があったなぁ。

 う……うぷっ!

 ―――やべぇ、吐きそうになった。

 ステラの方に視線を向けると、彼女も「うぅうう」とか言いながら涙目になっている。
 彼女も頑張ったんだな。その気持ち、わかるぞ。

 「うむ、まあそこそこきつかっただろう!」

 そこそこどころか、滅茶苦茶きつかったですけど!

 「そんなおまえたちにとって、ワタシからの最後のプレゼントだ!
 ――――――オークダンジョンにて、オークキングをぶっ殺してこい!」

 え?

 「―――以上!」


 オークダンジョンだと?


 これはゲームにおけるメインストーリーのはず。しかもそこそこ中盤にでるイベントだ。
 ゲーム主人公が、パーティーを組んで挑戦するイベント。

 「せ、先生! 俺はいいとして、ステラはオークダンジョンまずいんじゃ……」

 そう、イベント難易度もそこそこ高いのだが、なによりもっとマズイ理由がある。

 オークは敵を倒すと交尾するのである。
 種族に関係なく。
 オークダンジョンはその名のごとくオークの巣窟だ。

 「せ、先生。オ、オークって、女を見たら見境なくアレとかコレとかしちゃう魔物ですよね?」
 「ああ、そうだアビロス! ワタシも一度行ったことがあるが、凄まじい勢いで群がってきてなぁ~」

 ああ……ラビア先生の色気なら、そりゃもうオークたちもウホウホでしょうね。

 「めちゃくちゃ楽だったぞ~~向こうからドンドン来てくれるんだ~順番に首を斬っていけばいいだけだ」

 いやいや、それ出来るのごく一部の人だけだから。

 ラビア先生とか。

 「しかしなあ……仮にも聖女だぞ……」

 「ちょっと、アビロス! なぜ私の身体をジロジロみてるんです?」
 「いや、ごめん……」

 だけど……

 今のステラはタユンポヨンがすぎるんだよぉおお! 法衣からこぼれ落ちそうじゃん、それ!

 ―――たぶんオークの大好物だ。

 「なあステラ。教会も流石にダメっていうんじゃないのか?」

 聖女自らオークダンジョンに入るとか……マズくないか。

 「じゃ、じゃあ危なくなったら……助けてくれたらいいじゃないですか! アビロスが……」
 「え?……俺が?」

 「アビロス! あなた、私がオークにアレとかコレとかされてもいいのですか!」

 「………いや、ダメです」
 「なにか不穏な間があったような気がしますね」
 「そ、そんなことはないぞ!」

 「アビロス! 私の純潔、ちゃんと守ってくださいね?」
 「お、おう……」

 なぜか上目遣いの聖女さま。俺の視線の先には……

 タユンポヨン~~
 タユンポヨン~~
 揺れてるな~2つのアレが~~

 ―――いやいやこの試験、違う意味でも難易度高くない?


 ……なんでこうなった?