教室の窓から外を見れば校庭に咲く桜が
満開の季節。
僕は、ぼーっと景色を眺めていた。

そんな静かな情景を遮るように、
教室に入ってきた担任はHRを始める。
出席確認を終え、
「えー今日から1年生の部活動入部が始まる。お前らが去年して貰ったように、先輩として色々なことを教えてやって欲しい。以上だ。」

気付けば学年が上がり、後輩ができた。
だからといって僕自身が
教えて上げられる事なんて
何もないとそう思っていた。

放課後になり多くの生徒は部活の時間になる。
部活動に所属していない僕には関係のないこと。


下駄箱につき、
靴を履き変え、帰ろうとしたその時

「凪先輩~!!」
と聞き覚えない声で呼ぶ声が聞こえた。
その声はどんどん近づいてきて、
あっという間に僕の目の前に
立ち塞がった。

姿は少し寝癖のついた黒髪、耳にはピアス
背は僕をよりもずっと大きい。
僕の関わることはないタイプの子。
どんなに記憶を辿っても
知り合いに当てはまらない。
どうしたらいいのか考えていると、

「凪先輩ですよね??写真部に行ったら
部員じゃないって聞いて探し待ってたんです。
俺先輩に一目惚れしました!」
と、廊下に響き渡るくらいの声量で
続けて話しかけてきた。

突然のことに驚き、
呆然としているのは僕だけではない。
近くにいた全員がその勢いに圧倒され、
空気はシーンと静まり返る。

その空気を変えるように
「あっすみません!!
順番ミスりました。俺1年4組の佐伯海人
って言います。
先輩俺と付き合ってください。」

佐伯くんは答えを早く知りたいといった表情で
僕を見つめてくる。

「あの~先輩?」
「ぼっ、僕に君のこと知らないし、、ごめん。」
制服のズボンをぎゅっと握りしめながら
小さな声で冷たく答えた。

「ちょっと待ってください!先輩!!」と
呼び止める声を無視して、
履き掛けていた靴を履き、
急いで昇降口を後にする。
後ろから僕を追いかけて来てる足音が聞こえる。
このまま彼を撒ける程、足が早い訳がない。
僕はあっけなく、腕を掴まれてしまった。

「さっきはすみません!ビックリさせてしまって。
俺声大きいから、、でも嘘じゃないんです!」
彼が、必死に伝えてくれている事は
分かっていた。

「ごめん。
冷たい言い方をして。
でも付き合うとかは...」
顔を見て伝えなきゃ失礼なこと、
それくらい分かる。
けれど僕は俯いたまま彼に伝えた。

返事はない。
次第に掴まれている腕は緩み離れる。
これはきっと何かの間違いだ。
だから、もう話すことは無いだろう。
そう思いながらその場を離れた。